【3】(3)

藤島ふじしまさんみたいなボランティア、もう少し増えてくれるといいんだけど……っ」


 屋上から、暖房が稼働している教室へと向かう途中の階段で。

 織原おりはらくんは一段、踏み外した。


「織原くん!」

「大丈、夫っ!」


 本当は、大丈夫じゃないのかもしれない。

 そう思ってしまうのは、マスクをつけていた状態では織原くんのことを確認できないから。

 声と、目元でしか、織原くんの無事を確認することができない。


「足、上手く動かせなかった……はは……」


 だから、聞かなきゃいけない。

 本当に大丈夫かってことを、確かめなきゃいけない。


「織原くん、体調悪い……?」


 階段を踏み外した織原くんの元へと駆け寄って、私は織原くんの顔を覗き込む。

 マスクが邪魔だって思うけど、仕方がない。

 声と、目元と、織原くんの言葉を信じることしか私にはできない。


「……少し……ほんの少しだけ」


 織原くんは、笑った。

 大丈夫だよ。

 なんでもないから、心配しないで。

 そんな気持ちを伝えるための笑顔を、マスクの向こう側から用意した。


「向かうのは教室じゃなくて、保健室。ね」


 ひんやりとした何かが、私の手をかすめた。

 校舎の中に入った私たちは手袋を外していて、互いの手を触れ合わせることができる状態。


「手、借りてもいいかな」


 手を繋ぐ。

 手を握る。

 織原くんを近くに感じるはずなのに、どっちの手も冷たくて互いの熱を感じられない。


「好きでもない男に触れられるって、気持ち悪いよね」

「保健室に連れて行くだけで、大袈裟」


 早く、春になればいいのに。


「だから、気にしなくていいよ」


 早く、暖かさを感じられたらいいのに。


「気にしないで」


 早く、織原くんに春の暖かさを感じてもらえたらいいのに。

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