第5話 金曜 ~仕事という名のドライブ~

◆◆◆


♪通り過ぎるたくさんの車の音♪

♪坂下のスマホの着信音♪


「はい、坂下です。おはようございます。」


―おはよー。もうすぐつくけど、出れそう?


「はい!てか、もうロンリーマートにいるので。」


―早っ。あ、いたいた。俺、白のワンボックス。見える?


「あ、わかりましたー!!切りますね!」



♪バタン!(車のドアを閉める音)♪



―おはよー。待たして悪いな。って、まだ予定時刻前だけど。


「いえいえ!!むしろ迎えに来てもらって、ありがたいです。」


―ちらかってるけど、乗ってー。ナカムラがさ、車でタバコ吸うんだよなー。クサくてごめんな。おまけに、社用車なのにナビもついてなくてさ。


「じゃあ、私が部長のナビになります!!!」


―坂下ちゃん、何歳だっけ…??(笑)

 てか、朝食べた?飲み物とか大丈夫?コンビニ寄る?


「いえ、準備万端なので、大丈夫です。」



♪車の走行音と、ラジオから流れるラブソング♪



―もうすぐだわ。この辺、路駐ろちゅうできないんだよなー


「そうなんですねー。さすがに、見つかったらまずいですもんね。」


―どっか駐車できるとこ、探すかー。


「あ、部長。ここ、入れそうです!!」


―あー。ほんとだ。ちょっと、バックするから、後ろ見ててくんない?


「はい!…あっ!!壁にぶつかっちゃいそうなので、ゆっくりお願いします。」




♪ピー、ピー、ピー♪(車からアラーム音が鳴る)


「部長、なんか鳴ってますよ?」


「あぁ、俺さっき、ベルトはずしたからだわ。もうすぐ出るから、気にしなくていいよ。」




♪ガチャン♪(車の扉を閉める音)


―今日の1件目ー!!。ジャジャン!プラズムタワー99号館。今、うちの会社で力入れてる【プラズム】シリーズのマンションだよ。すげぇ洒落しゃれてるよな。キッチンとかの細かい採寸の依頼入ってるから、ちょっと手伝って。


「うわぁー!!すごい綺麗!!ホテルみたいですね!!こんな家に住んでみたいですー!!」


―だよなー。とても手が出せないけどな。俺も喉から手が出るほど欲しいわ。


「えーっ!!エレベーター勝手に降りてきましたよ!?…早っ!!!ちょっと、高速すぎて耳がヘンになりそうです!!」


―すごいよなー。さすがに30階ともなると。ちゅうに浮いてるみたいなフワッフワな感じするよな。



♪ガチャガチャ♪(キーボックスを開錠する音)

♪ピッ♪(セキュリティカードをかざしてドアを開ける音)



「なんか、新居の内見に来てるみたいでドキドキしちゃいますね!!」


―え…う、うん…。俺のほうが、ドキドキするわ…。と…とりあえずさ、俺が間取りとか測ってくから、坂下ちゃんは間取り図に寸法書いてってくんない?


「わかりました!」


―まず、キッチン回りからいくね。冷蔵庫置けそうな場所から、幅…あ、幅は「W」ね。W980、高さが「H」で…2000かな。奥行き…縦が「D」で900。


「え…えっと、Wが高さで、Hが奥行きで…???」


―ややこしかったらまだ覚えなくてもいいから、とりあえずアルファベットとサイズを書いてって。


「は、はい。Bが、90cm、Wが、98cm、Hが、200cm??…であってますか?」


Bビーじゃなくて、Dディーね。あと、cmは使わなくて、mmで数えるから、覚えといて。


「はい!!次は、どこ測りますか??」


―ほかにも測りたいとこあるけど、次行くか……。



◆◆◆



―今日の2件目、ハイム早手はやて8810館。うちの扱ってる物件の中でもここが一番古いんじゃないかなー。プラズムタワーからここに来ると、ギャップがすごいよね。


「ホントですね。時代の違いを感じます。でも、なんか懐かしい感じというか、さっきのマンションはホテルみたいでしたけど、ここはすごくリアルに”家”って感じがします。実家とか、おばあちゃんちみたいな。これはこれで、なんかいいっていうか、ここで生活している感じが想像できちゃいますね。」


―ここ、3LDKだけどね。どんな暮らしを想像してんのか気になるわ。


「部長のご自宅は、何LDKなんですか?」


―…1DKだよ……「L」とかついてない。……


「な…なんかすみません…」


―……別に最低限生活に困らなきゃいいんだよ……坂下は?何LDKなんだよ?


「部長のイジワル……。うちも1DKです。本当は、もっと広いところがいいんですけどねー。」


―へぇー!そうなんだ!!俺も、最近広い家に引っ越したいなぁーって思っててさー!


「え?最低限でいいんじゃなかったんですか?彼女さんとかできたんですか?」


―いないよー。いたらもっと広い家に住んでるって。


「へぇー!部長、明るいしモテそうなのに、意外ですね!!」


―……こらこら。オジサンをからかうんじゃないよ。

―…ま、でもよく言われるけどな!さ、次行くとこは、管理人さんと話あるから、名刺交換しとけよ。…って、まだ名刺ないんだったな。


「この前部長にお渡しした紙の名刺なら…」


―えーっ!?あれ、俺がもらったのに……


「えっ!?」


―あ、いや…


「……」


―……よ、よし、次行くぞ。


「は…はい…。」



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