第3話 水曜 ~てんぷ★ランチ~

◆◆◆


♪駅のホーム。人々の靴音と、電車が絶え間なく行き交う音♪


「あ、部長!おはようございまーす!!」


―お、坂下じゃん。お前も星城駅方面だったんだ。なんか今日、元気だな。疲れてないの?


「昨日、友達とヒップホップの体験レッスン行ってきたんですよ。疲れてはいるんですけど、なんか充実感があるっていうか。」


―へぇ、アクティブだね。ダンスとか好きなんだ。


「いえいえ、普段はインドアでぐうたらなんで、時々身体動かしておかないとと思って。急に激しい運動とかしちゃうともう、息切れしちゃって。」


―…ふーん、普段は運動とかしてないんだー。へぇー。…坂下、実家暮らしなの?


「え?あ、いやこの前まではずっと実家だったんですけど。最近出たんですよー。」


―…へぇー。…なんか、心境の変化でも?


「いえ、まずは自分で生活できるようにならないとなーって。」


―そっかぁ!!!俺も坂下と一緒でインドア派なんだけど、やっぱ時々は外に出かけたり気分転換したいよなー!!!


「そうなんですよ!なんか、だらけちゃってばっかりだと、ダメだなーって。」


―じゃあ、【ラウンド2】とかどうよ。いろんな運動できるし。俺、わりとオールマイティっていうか、ダーツも一発で命中させれるしー、ビリヤードのテクニックもなかなかだと思うよー。


「あぁ!楽しそうですね!!今度行ってみたいです!!」


―え?あぁ、今度?…うん、彼氏とかとー?行ってきたら?楽しいんじゃないかなー?


「え、部長、誘ってくれたんじゃないんですか?」


―え!!??いやぁ…えっ!?まぁ、坂下が嫌じゃないんだったら、楽しそうだとは思うけどさー……


「え、部長、行きましょうよ。ビリヤード、教えてほしいですー!!」


―え、本気で??俺、予約しちゃうよ?



◆◆◆


♪昼休憩のチャイム。坂下がマウスをカチカチしている音♪



―坂下ちゃん、休憩、入れそう?


「えっと、まださっきの処理が終わってなくて。」


―じゃあもうちょっと待ってるね。てか、今日、ナカムラもいないけど、ホントに大丈夫?実は迷惑とか思ってたら、言ってね。


「いえいえ。とんでもないです。私もちょうど、ご一緒したかったので。」



♪皆がぞくぞくとドアを出ていく音♪



―坂下ちゃん、まだ?先行ってていい?


「すみません、まだ行けなそうなんで、先に行っててください。もう少ししたら行きます!」



◆◆◆


♪昭和歌謡が流れる店内。人々の喋り声♪


―坂下ー。こっちこっち。


「あ、部長、すみません、遅れてしまって。」


―混んでて、カウンターしか取れなかった。今日のランチはコレみたいだけど、どうする?


「魚の煮つけか、天ぷらか、焼肉定食かー。うーん。悩むけど、天ぷらかなぁー」


―じゃあ、俺も同じのにしようかなー。おばちゃーん、おねがいしまーす。



♪カウンターの向こうからジュージューと油の跳ねる音♪


「いいにおいしますねぇー♪」


―なー。おっ、きたきた。天ぷら、うまそーだなぁ。しいたけと、イカと…なんだこれ?なんかの魚だな。


きすですよー。久々です。とってもおいしいですよー?食べないんなら、部長のきす、私に下さいよー。」


―はぁ?食べるし。自分のあるだろ。しいたけくらいなら、あげてもいいけどな。


「えー、しいたけかぁ。せめてイカにしてくれません?」


―わがままだな。ほらっ、イカやるよ。


「やったぁ!!ありがとうございます!!」


―どうだ。イカ、うまイカ?



「……部長、ちょっと、寒気が……」





◆◆◆


♪休憩後のチャイム。電話機から内線の音がしてすぐにドアが開き、配達業者さんの威勢のいい声が聞こえる♪


―あ、坂下ちゃん、頼んでた名刺とか名札とか届いてるわ。営業とかやったことあったっけ?名刺交換とかしたことある?


「いえ、今までやったことなくって。ちょっと、自信ないです。」


―じゃあ、とりあえず、練習でもしとくか。

 立って、相手に見えるように向けて、両手で持って。

 そうそう。で、下から上にだから、坂下ちゃんから俺に。って感じだね。


「こう…でいいですか?」


―そうそう、OK。で、俺がもらう、と。

 で、次は俺があげる番ね。

 坂下ちゃんは「頂戴いたします」って両手でとって……



―あれっ、坂下ちゃんの名刺、部署間違ってんじゃん。営業二課になってる。ちょっと新しいの頼んでおくから、それまで口頭で挨拶するようにして。もしくは、名刺代わりのメモを書いておくとか。


「あ、じゃあ練習でそれっぽいもの書いてみますね。」


―いいよ。



♪ペンの音♪


「できました!!」



=========================

㈱コーナーリバー不動産 営業部 営業一課

坂下さかした みお


080-XXXX-XXXX

mio-lovely11@XXXX.co.jp

=========================


「できました!部長、これで練習してもらえますか?」


―え、あれ?まだ坂下ちゃん、会社スマホ付与されてなくない…?ってか、これもらっていいの!?ってか、アドレス……えっ……(笑)




「受け取ってくれますよね??部長?」













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