第10話 みき子のファッション雑誌(小説/青春)
勉強机の上に雑誌を広げた。下に敷いた夏休みの宿題のドリルそっちのけに、みき子は見開きをながめた。
グラビア印刷のページにはカラフルな水着を着た少女たちと、水着ブランドのロゴマークが所狭しと描かれている。
黄色の上下ビキニ――ジルスチュアート、カラフルなハイビスカス柄ビキニ――ROXY、花柄赤ビキニ――アルパローザ。
そのブランド名の全てをみき子は知っている。
どのよう趣向か、どのような購買層に向けているか、どれが時代遅れで、誰が流行の最先端から、そしてどのくらいの値段で売られていることが多いか。
ブランドもそれぞれ微妙な違いがあるのだが、このようなファッション雑誌を毎月読んでいなければ到底理解できない微妙な違いである。
今年はどの水着を選ぼうか。
ROXYのは可愛い。
色合いが好みだ。
でも、恋人の祐輔は黒色の刺激的なビキニが好きだ。
あいつはエッチなやつだから。
選ぶとしたらそういうのになるかな。
でも今年はガーリーなのが流行りだから、花柄とかかわいい模様のを選びたい。
友達の絵美とオソロにしてみるのもいいかも知れない。
みき子は4ページにわたる水着紹介のページを何度も行ったり来たりしながら、しばらく夏の海の世界に浸る。
グラビアの中の海は本当に綺麗だ。
陽光を受けてキラキラ反射する海に、砂の粒子が細かい真っ白なビーチ。
アイスクリーム・パーラーにヤシの木陰のデッキチェア。
明らかに海外の光景であったが、みき子の旺盛な想像力においては、その中で遊ぶのは容易なことだった。
とはいっても、現実世界でみき子がいつも行くのは市街地のやや外れにある屋内プールか、電車で20分の距離にある隣県の海岸だ。
とてもじゃないが、雑誌のイメージからは程遠い。
通称「砲塔ビル」近くのリゾートホテルではナイトプールの開園をしているようなのだが、利用料金は一万数千円と高く、庶民には手が出ない。
いつしか水着紹介のページにも飽きて、パラパラとページを繰り、サンダル特集に眼が移る頃には、水着や海のことはすっかり頭から消えていた。
一通りファッション雑誌を読み終えると、棚に戻し、みき子は宿題に再びとりかかった。
全部終えた頃に、友達の香織から電話がかかってくる。
今年さー、海どうしようか。
香織は訊いてきた。
今水着選んでたんだよねー。
何買うの?
まだ決めてないんだけどー。
それから、女子による、女子だけの、女子のための会話が始まる。
男はこの話に関心を抱くまい。
なのでここで筆を置く。
完
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