第15話 バカスギルの犬(書評?/ナンセンス)

※本作は架空の書評を書くという自主企画に応募しようとして、できたものがあまりにくだらなすぎるので自ら封印したものである。はっきり言って読んでも時間の無駄である。




 日本ではほとんど知られていないミステリー小説の古典、ドナン・コイルの連作短編集「バカスギルの犬」の邦訳が驚々出版よりこのほど刊行となった。翻訳は、新進気鋭の翻訳家・罵村あれん氏によるもの。


 本作が特殊なのは、コナン・ドイルのシャーロックホームズに多大なる影響を与えておきながら、コナン・ドイルがこれについて全く言及してこなかったことにある。まるで彼やその周辺のエピゴーネンたちが本作の存在を全く蔑ろにし、意図的に隠蔽しようという明白な意図があったのではと感じさせるのである。

 今回の刊行により、世界のミステリー研究に一石が投じられることは間違いない。本作は「シャーロック」のようなエンタメ志向とは対極にある難解で高尚で格式の高い文学作品であり、読むのを尻込みする読者も大勢おられることだろう。それでも読むのは義務と心得てこの秘匿されてきた十九世紀英国の叡智を紐解いてほしい。


 本作が執筆されたのは、シャーロック・ホームズシリーズの第一作である長編小説『緋色の研究』が発表される十年前の、1877年。細密極まる背景描写は、ビクトリア朝のロンドンの街並みや自然美あふれる光景を余すところなく描き出しており、歴史の重要な資料として位置付けられるだろう。


 さて物語は、本作の主人公シャバロックがクーラーの効いた部屋でスイカバーを食べながら床に寝そべりゴロゴロしているシーンから始まる。名探偵シャバロックが隣の部屋の洗濯物が風に舞って窓から部屋に飛び込んでくるのを目の当たりにする。それはまだら模様の紐パンティーであったからシャバロックは「ああ、まだらのひもが」と歓喜する。

 シャバロックは得意の思考能力を発揮して、紐パンティーの持ち主を女子大生、二十歳、金髪ロング、キャバクラバイトなどと推理する。しかし、その持ち主の部屋を訪れると、シャバロックを迎えたのは半裸のオッサンで「それは私みずから縫い上げた愛用品でね。返してもらえるかな?」などというものだから、シャバロックは深い悲しみに堕とされる。この「嘆き」のシーンは十数ページにも及び、ドナン研究家のE・ソノ・カッツォ氏によれば「シェイクスピア悲劇を思わせる」描写だという。


 続くエピソードでは、ボヘミアン王がシャバロックを訪れ、自身のスキャンダル写真を持っている女から写真を取り返し、隠蔽してほしいと依頼される。シャバロックは得意の思考能力を発揮して、その女は女子大生、二十歳、金髪ロング、キャバクラバイトなどと推理するが、全然違ったため、ボヘミアン王は呆れて帰ってしまう。そのことに腹を立てたシャバロックはボヘミアン王のスキャンダルネタを週刊誌に売って小金を得る。


 そのほか「踊らされる人形」「ぶなの木公衆トイレ」「ハスターの帰還」「青ひげ同盟」など珠玉の短編を多数収録。なかにはヒューマニティーに彩られた感動のシーンもあるらしいのだが、私にはとても退屈すぎて途中で寝てしまったため、その辺への言及は割愛させていただく。これには先述のカッツォ氏も「くっさ」などと言葉を尽くして最大限の批判を展開している。得てして名著とはマスターピースであるとは言い難いのだ。


 本作は現代人の知性に対する挑戦状である。読み手に対しては「私を読み込み、理解することができるかな?」と問いているかのようである。この難読書を読み解いてこそ真の知識人といえよう。なお、本書の値段は10億円。著者の罵村あれん嬢は女子大生、二十歳、金髪ロング、キャバクラバイトである。

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