第14話 醤油ラーメンを食べる(エッセイ/グルメ)

 醤油ラーメンを頼んだ。

 30半ばと思しき女性店員によって目の前に一杯のラーメンがおかれる。

 黒々とした醤油ベースのスープの中にはちぢれ麺が沈んでおり、その上にはチャーシューが二切ればかりと細かく刻まれたネギが浮いている。それとメンマ。

 さっそく湯気立つスープの中に箸を割り込ませて、麺を適量持ち上げる。

 香ばしい鶏ガラだしの臭いが立ち込め食欲をそそる。

 そのまま口元まで運ぶと、一気にずずずっと吸い上げる。

 ちぢれ麺はスープが絡みやすいと言う。

 そのとおり、鶏ガラスープの旨みが口に広がる。

 まだ熱いので口に運んだのは麺は少ないものだった。

 すぐにも咀嚼が終り、あっという間に嚥下してしまった。

 最初の一口で食欲が刺激されたためか、すぐにも二口目が欲しくなる。

 今度はさっきより多めに取る。

 二口目は三口目を誘う。

 しばらく、麺を吸い上げるのに夢中になる。

 未だ覚めぬラーメンの熱さと、単調な所作に突かれたため、口休めにチャーシューを取る。

 木肌色の色気の悪いチャーシューで、口に運ぶまではどこか義務的であった。

 そう、口に運ぶまでは。

 口内で一度噛めば、チャーシューの旨味がみるみるうちに広がった。

 漬けダレの香ばしい醤油の香り、肉の持つ旨み、ジューシーさ、それから噛みごたえ。

 柑橘系の臭いと、ややスパイシーさも遅れてやって来る。

 そのおいしさに任せて麺を一気にかきこむ。

 二枚目のチャーシューも食べ終わる頃には、どんぶりの中の麺は半分くらいに減っていた。

 そろそろ、胃袋がつかえてくる。

 私は男子にしては少食である。

 ラーメン屋の通常のいっぱいであれば十分にお腹が膨れる。

 だが、この店は自宅から一時間の遠距離にあり、めったに来れない。

 貧乏根性を出して、通常のものより多いのを頼んだのである。

 この店のメニューは至ってシンプルだ。

 味噌、しょうゆ、塩の三味。

 それからサイズが並、中、大の三つ。

 私は醤油の中を頼んだ。

 どんぶりの中にはまだ半分の麺が残っている。

 何とか闘わなくては。

 私はスープの底に沈んでいたレモンのかけらを一囓りする。

 この店の特徴的なところはラーメンの隠し味としてレモンが使われているところである。

 レモンの爽やかさ、それから酸味が味を一気に広げている。

 レモンは食欲を刺激するものである。

 かけらを齧りながら、何とか全て平らげる。

 胃袋は満タンになったハズなのに、何だか物足りなさがある。

 私は、スープの残りをレンゲですすりながら、浮いていたネギを囓り、名残惜しいラーメンとの別れに備える。

 どんぶりから顔をあげると、連れ合いもちょうど食べ終わった頃だ。

 会計を済ませ、外に出ると空からはまるで真夏のような日差しが降り注いでいた。

 いやあ、美味しかった。

 開口一番そういった。


(書き手・ラーメンブロガーみさと)

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