第11話

それとは反対に徐々に増していく太陽の光。目にまぶしい太陽に、天海はいまいましく思いながら無抵抗に朝日を浴びる。


街を歩く人も増えていく。街も駅も動き出し、皆せかせかと駅へ会社へと向かっていく。

あの股間を蹴り飛ばしたチンピラ達も不満を朝まで垂れ流しながらで朝まで飲んでいた店を追い出されて人混みに紛れていった。


半年程前、突然虚無感が降ってきた。孤独感、無気力、胸をえぐられるような寂しさが金魚のフンのように天海にまとわりつく。

あるいはメリーゴーランドの馬のように天海を取囲み四六時中ぐるぐると回る。


自分は鬱になったのだろうと理解したが鬱になる原因は何も思い当たらなかった。

将来に不安を覚えたこともない。

ワーカホリックな傾向を総務に指摘されたことは多々あるが、最近は従順に休むようにしていた。

もとより仕事が面白すぎて会社のラボに何かしら研究や開発していないとかえってストレスが溜まる。


それぐらい仕事に熱心で好きだった。鬱になる理由がない。心が無気力でも天海は何をどうするのかアイデアは湧き、頭は相変わらず忙しく動いていた。

その心と頭がちぐはぐな状態にも天海は戸惑っていた。


仕事に満足しているのに、胸を抉る絶望は消えることはなかった。人生は充実し仕事も楽しい。なのに死にたくなる。

明らかにおかしかった。


ただ一時、忘れると音ができたので気休め程度にそれらから逃れかられるような気がしたから、総務の話も無視して仕事に打ち込むようになった。


もちろん天海は論理的で常識人だったからメンタルクリニックにもちゃんと行った。

結果、二回クリニックを変え、薬は各病院につき三回変えた。

結果、とうとうあきらめて死神に自棋を振ったのだった。


天海の二つ目の計画は女を抱くことだった。

この女を抱こうという本能的且つ下卑た思いつきは、どうせ能動的に死ぬなら過去経験したことがなく、これから実現できそうなことをやろうという実に人間的な願望ともいえるかもしれない。


この場合の女とは誰でも良く、つき合っている彼女でも良かったが、天海に彼女はいない。

過去にもいない。

なのでどこかで見繕う必要がある。


それにしても精神がボロボロの人間にしては積極的で煩悩まみれのアイデアである。

天海は死ぬ計画と女を抱く計画、二つを綿密にに立てた。


しかしくどくど迷いながらも決断したあと、天海はわりにいい気分だった。

死ぬと決めたこともそうだし、女を抱くなんて今まで積極的に考えてこなかったものだから、自分の本能的な部分がちゃんと存在していたことも分かって何となく安心した。


天海は昔実験で使った線虫という虫を思い出した。

線虫という1mmに満たない虫のオスは、目の前にエサとメスがあるとメスの方へ行く。


(オレは線虫と同じだな)


皮肉な顔で自分を嘲笑する。


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Case note 憂鬱なナースサマリー おおかど朱鷺子 @yantari

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