第9話
男は気がついた。
意識が除々に明確になり視界もはっきりしてくる。
思い出した。
赤い花吹雪が舞っているようなあくどい柄の天井に焦点が合った時、男は思い出した。
(そうだあの女……!)
自分が途中まで何をしていたか思い出した男は、体を起こそうとした。
が、力が入らない。
手足にも感覚はある。頭もはっきりしている。
呼吸も正常だ。なのになぜか身体に力が入らない。天井しか見ることができない。
もがくこともできず、全身に冷や汗がじわりと染み出してくる。
「あぁ良かった!生きてたぁ!」
男の真上に、にゅっと女が顔を出した。
「うわっ!あっ、おまえ……!オレに何をした?!」
「ごめんなさい!あんなふうになるなんて思わなくて。迷走神経に作用するスタンガンなんて初めて使うし、リップ型で小さいから加減が分からなくて。出力最大にしたら気絶したままずっと動かないから死んじゃったかと思いました!自覚めてくれて本当に本当に良かった!」
心底安堵したのだろう。女の目は涙でうるんでいた。
「あぁ、でもまだ一時間くらい体は自由に動かせないかもしれないです」
女が申し訳ない顔をする。
「おいどういうことなんだ、なんとかしてくれ!」
「めんなさい。待つしかなくて……。でも時間が経てば動けるようになりますから」
女が励ますように言うが、どうにもならないことが分かり、かえって絶望する。
追い打ちをかけて女は薄情なことを言った。
「天海さんの生死も確認できましたし、明日もありますし私はそろそろ失礼しますね。そうそうスマホとお財布は返してもらいましたからね」
とても晴ればれとしたいい顔で女は部屋を出ていった。
もっとも首も動かせない男は、女の後ろ姿を一瞥することもできなかったが。
部屋にはピンク色に染まるベッドに横たわる男だけが残された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます