第8話

一番嫌なことに気づいた。

急いでスカートをたくし上げ、露わになっている胸元をさらに広げる。


(はぁ〜良かったぁ)


さしあたりさんごは見覚えのある下着をつけていた。

これでさらに落ちついたというか、開き直ったというか、さんごは不思議と冷静になった。

ショックなことが起きすぎて、すでに達観の域に入ったのかもしれない。


さんごはまず、ハンドバックを化粧台の上でひっくり返した。落ちてきたのは化粧ポーチだけ。

入れてあったはずの財布、スマホもない。

予想はしていたが、やはりない。

男が回収したのだろう。


(理性が飛んでても抜け目ないなぁ)


化粧ポーチ中はアイブロウ、チークそれからリップ。

さんごの顔にはわずかな希望が見えた。


「よし」


さんごはリップ片手に気合いを入れた。


ドアを開けると男はベッドに腰かけ膝の上に乗せた手でほおづえをつきながら、こっちを凝視していた。


(あの人ずっとトイレのドアを見てたのかしら)


単純に怖い。

男の視線に気まずくなり、


「えーと、お待たせしました……」


とそろそろっとトイレから出た。


据わった目で男がさんごを見ている。


「早く、バックそこに置いて」


テーブルを指して、つっけんどんに急がせる。


「あ、はい」


派手なピンクの光に照らされたベットにぎこちなく歩み寄る。

さんごがベッドまで来ると男はベッドまで来たさんごの腕を掴むと押し倒した。


馬乗りになり、さんごの腕を押さえる。

さっきの時間を取り戻そうとするかのように胸に唇を当てさらにその下へ進もうと、コルセットの紐を乱暴に解く。


一瞬左手が自由になった。

さんごはスカートのポケットに手をつっこむとリップをつかむ。

そしてキャップを爪先ではじいて取ると、さんごはリップの先端を男の後頭部に思いっきり突き立てた。

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