第6話

(ホテル?)


さんごがあらためて見回すと(首を動かせる範囲だが)目がチラチラするエキセントリックな壁紙とか、 なぜだか分からないが床がピンク色に光っていたりとか、そして自分が磔にされているベッドはまさにホテルのそのサイズである。


(そういうホテルかあ…)


目は彼方へ、心はため息の沼へ沈んでいきそうだった。しかし諦めてはいけない。いかなる時も冷静に、前向きに。別にモットーではないが諦めたら未来がなくなる。


「ええと、そういうことみたいですね。監禁なら当然の対応ですよね」


泣きも暴れもしないが、どこか他人事のようなさんごを男は変に思ったらしい。


「量を間違えたか」


ポロっと口から出た男の言葉にさんごは、反射的に抗議した。


「あっ、そうだ、忘れるところだった!あなた私に何か飲ませたでしょう!ホッとしてうっかり渡してくれたお水飲んじゃったじゃないですか!一体何を飲ませたんですか?!」


元気に物申すさんごを見て、大丈夫だ、間違えてないと男は一人うなづいた。


「急に意識が失くなって怖かったじゃないですか!」


生気のない顔が僅かに自責に歪んだように見えた。


「そうか。怖かったのか。悪かった。でも安心していい。君が飲んだ薬はオレが昔創った即効性の睡眠薬だよ。依存性もないし、副作用もなさそうだったし。いいとこまでいったんけどな」


「いいとこって?承認されてないんですか、その薬。どうして?」


「オレみたいな奴がいるからだよ。あと開発費がバカ高い。会社が途中でさじ投げた」


やっぱり違法だった。

さんごは頭を抱えた。もちろん胸の中で。

薬は身体に化学的に作用する化合物だ。

渋谷を徘徊する無法者がどのように使うとどのような結果になるのか、さんごは身をもって理解した。


(製造費、バカ高くて良かった)


薬は違法だが、さんごはひとまず胸を撫で下ろした。


でさ、と男は話を続けた。


「君もう完全に目覚めてるよね。準備はいいかな?」


(準備?準備ってなんの?)


なんだか分からないけど、ものすごく物騒な気がする。

きっと準備ができてても、できてなくても、さんごにとって不利益な事しか待っていない。


さんごが答える前に男がイスから立ち上がった。おもむろにベットに寄ってきて無表情にさんごを見下ろすと、どさっとさんごに馬乗りになった。男の重みでベッドが沈んできしむ。

男の体から漂う酒の臭いをかいだ時、ぐっとさんごに体を寄せた男が言った。


「これから君を犯す」


(えええっ)


そのまま男はさんごの首筋に唇を押しつけてくる。


(あぁどうしよう、どうしよう。なんとかしないと)


無駄だと思いつつ、体を動かしてみる。

が、手足は固定され体は男の体重で動かせない。

このままだと本当にヤバイ。せっぱつまったさんごは一か八かの賭けに出た。

体の自由を奪われたさんごに出来る唯一の打開策だった。

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