第5話
ぱちっと目が開いた。
すいぶんすっきりとした目覚めだ。
さんごがうっかり不用意に飲んでしまったミネラルウォーター。
あんな急激に意識がなくなるなんて絶対に薬を入れられていたに違いない。
しかし薬物が入っていたわりに気分爽快、清々しい目覚めだった。
体のどこも痺れたりもしていないし倦怠感もない。
飲んだ直後から意識が途切れるほどの効力がある薬物なんて、目覚めた後も朦朧としていて、しばらくボーッとなっていそうなものだ。
こんなに意識がはっきりしてるなんて、かえって心配になる。
なにか非合法な薬が入っていたのではないか。
考えるだけで怖い。
巣の上で威嚇するカラスのように違和感と不安がぐるぐると回り始めたが、さんごは二羽を追い払う。
とりあえず起きよう!と思った。
が、上半身を起こそうとする力は四肢に分散して頭を少し待ち上げるに留まった。
さんごは手足をベッドに縛られていた。寝ながら磔である。
「えっ、何これ?!」
「逃げられると困るからさ」
どこかで聞いた陰気な声だった。
はっとして声の方を見るとベッドのすぐ横で、くしゃくしゃのシャツを着た男、あのさんごに薬物入りのミネラルウォーターを飲ませた酔っぱらい男が、足を組んで気怠そうにイスに座っていた。
青白い顔に不精ひげ、ボサボサの髪、顔にめり込んだような濃いクマ。
声と同じかそれ以上に陰気で鬱々とした男の姿があった。
(この人……)
自分の手足が縛られている状況は分かったが、どうして縛られているのだろうか。
日本は、東京はこんなに危い場所だったのだろうか 。
それとも渋谷という場所が人を惑わせるのだろうか。
そんなこと聞いてない。
「あの、これは一体……」
「だから逃げられないように。君はオレに誘拐されてホテルに監禁されて いるんだよ」
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