第9話 疑惑

 イズが食事を終えた後、クライドは部屋を後にする。

 目を覚まし食欲もあるとはいえ、未だ疲れもあるだろうし、もうしばらく休ませた方がいいだろう。


 すると、それからすぐ、彼の元に一人の男がやってくる。

 トーマだ。


「聞きましたよ。あの人間の娘を、しばらくここに置いておくそうですね」


 口調から、彼がこの事をあまり良く思っていないのが、なんとなく察せられた。

 それはまあ、クライドの予想通りだ。トーマを自分の補佐役として傍いてから今まで、その仕事ぶりには何度も助けられたが、こういう突拍子もないことは嫌うというのはよく知っていた。

 しかし、だからといって撤回する気はない。


「どうにも訳ありのようだし、俺のしたことへの詫びもあるからな」

「詫び、ですか。あなたが無理やり彼女を抱きしめたという、あの件ですか」

「まあ、そうなるな……」


 自分が悪いというのはわかっているからこそ、こうしてハッキリ言葉にされると、バツが悪い。

 だがトーマは、それを責めようとしているわけではなかった。

 ただ、クライドに向かって問いかける。


「妙だと思いませんか? 少なくとも、私の知ってるあなたは、そんなことをする人ではない。なのになぜ、あの時我を忘れてそんな狼藉を働いたのか」

「トーマ。お前、何が言いたい?」


 問いかけていながら、彼はまるで、既に答えを知っているかのようだった。

 知っていながら、それをクライドに言わせようとしているようだった。


「あなたも、本当は思っているのではないですか。彼女が、魔女ではないかと」

「────っ!」


 一瞬、クライドの目が細くなり、その中の瞳が震える。


「あなたに起きた異変。それに、あの銀色の髪。あれはまるで──」

「やめろ!」


 怒鳴るような声が、トーマの言葉をかき消す。

 クライドの手は固く握られ、小刻みに震えていた。


「そんなもの、なんの証拠もないだろう」


 明らかに、怒気を含んだ声。だがトーマも、一切動じず続ける。


「その通りです。だからこそ、私に調べさせてもらえませんか。彼女が、本当に魔女なのかを」

「…………わかった。いいだろう」


 トーマは許しをもらえたことに対して一礼すると、すぐにその場を去ろうとする。

 だがその前に、一度立ち止まり、最後にもう一つだけ質問する。


「もしも彼女が魔女であったなら、あなたはどうされるおつもりですか?」


 ほんの少しの沈黙。だがクライドは、それからハッキリと答える。


「決まっている。彼女が本当に魔女であるなら、ここに置いておくわけにはいかない。俺は、決して父上と同じ愚行を繰り返さない」

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