第30話 シスコンの弟
ルイトポルトがここ数年冷たいことは気になっていたものの、予定通りに結婚できる事がパトリツィアには心から嬉しかった。でも継母と義妹にいじめられている弟ラファエルのことは心配だった。そのために少々過保護にしてしまった自覚はパトリツィアにもある。ラファエルは姉にべったりでルイトポルトが姉を取ると思っていて彼を敵認定している。もうすぐ結婚して家を出ると伝えても、最初は今の生活がそのままだとラファエルは思っていてけろりとしていたが、結婚後は週に1回会えれば上出来と分かると大泣きしてしまった。
「でもお姉様は結婚しても僕と一緒におねんねするよね?」
「結婚したら、私は王宮に住むの。この家に住めないからラファエルとは一緒に寝れなくなるわ」
「嘘! お姉様、嘘でしょ?! 嘘だぁ~!!」
「ナディーンとゲオルグを置いていくから、寂しくないよ。2人がラファエルを守ってくれるからね。それに王宮にも連れて来てくれるよ」
「毎日?」
「ごめんね、毎日は駄目なの。王宮に来るためには許可が必要なの。だから週に1回ぐらいかな」
「週に1回ってどのぐらい?」
「7日のうちの1日だよ」
「ええ~、そんなに少ないの?! じゃあ、他の日はお姉様がうちに来てくれる?」
「1年に1、2回なら行けるけど、そんなにしょっちゅうおうちには帰れないの。王太子様と結婚したら、私も王族になるから、お外に行く時はいっぱい騎士さんたちが私を守らなくちゃいけなくなるから、そんなに自由にいつでもお外へ行けないのよ」
「やだぁ~、お姉様結婚なんかしないでぇ~! お姉様と一緒に王宮へ行くぅ~!!」
結婚が早まる話をしてから、ラファエルはますますパトリツィアにべったりになった。それを見てカロリーネとガブリエレは嘲笑した。
「これでは公爵家の跡取りなんて無理ですわね」
「ラファエルはこれから色々勉強して成長します!」
「そうかしら~?!」
パトリツィアはカロリーネとガブリエレをきっと睨んだ。
王家へ嫁ぐ前日、パトリツィアはラファエルにこれからの事を言い含めた。
「ラファエル、私は明日からこの家にはもういない。来れるとしてもせいぜい1年に1、2回。だから自分のことは自分で守るのよ。貴方ならできる! 貴方はツェーリンゲン公爵家の正当な後継ぎなんですもの!」
「お姉様がいなくても……僕ができるの?!」
「ええ、大丈夫。それにナディーンとゲオルグも貴方を助けてくれるわ。だからね、ちゃんとした後継ぎになれるようにお勉強とお行儀も頑張って。私もいつもラファエルを応援しているからね」
パトリツィアは、本当はナディーンだけは王宮に侍女として連れて行きたかったのだが、精神不安定になったラファエルのためにツェーリンゲン公爵家に残した。ナディーンとゲオルグは、カロリーネとガブリエレによるいじめに対する防波堤でもあった。
それでもパトリツィアは、まだ8歳の弟を魑魅魍魎な実家に置いていかざるを得なかったことに罪悪感が消えなかった。結婚式の日、ラファエルは大泣きして『行かないで! 僕を置いていかないで!』と連呼していてナディーンとゲオルグが必死に宥めていた。その様子を見ていたカロリーネとガブリエレは嘲笑し、実父のベネディクトは失望を隠しもしなかった。
------
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。これで第1章は終了となります。
本作はカクヨムコン10に出そうと思いますので、11月28日までは休載となります。
連載再開の際にもぜひともよろしくお願いいたします。(2024/9/8、26)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます