第21話 『救世主』

車で道路を移動する第三部隊隊長と副隊長。


二人は何もできないため窓から流れる外の景色を眺めていた。


「連絡がつかない部隊が増えてるな。第一部隊までやられたわけじゃないことを祈りたいけど」


隊長がふとそんなことを言い出した。

蓮斗は「そうだな」と返した。


「蓮斗、この状況どう見る?」

「第一部隊以外の連絡がつかなくなった部隊は壊滅。第一はいま敵と交戦中ってところか」

「俺も同じ意見だ」


第一部隊は最強の部隊と

そんな彼らはそう簡単にはやられないはず。


だから連絡がつかないだけのうちは交戦中と考えていいと蓮斗は思っている。


「でも、第一だけで乗り切れる状況でもないと思ってる」


隊長の予想に蓮斗は何も言わない。

沈黙は肯定。

蓮斗も全く同じ考えなのだ。


「蓮斗、お前走れ」

「はあ?」


急な命令に顔を隊長の方に向ける蓮斗。

なぜそんな面倒なことをしないといけないのかと反発しているのだ。


「今回の相手はお前抜きじゃきついだろ。それに、車で行くよりお前が走ったほうが速い」

「たしかにそうだけど」

「娘を頼めるか?」


その言葉を聞いて、蓮斗は黙り込む。

声色からはおふざけなど一切感じない。

多分、そうするしかないと思ったからこその指示なのだろうと理解した。


「守れなくても文句言うなよ」


蓮斗は運転手に車を止めさせ外に出る。

大役を任された蓮斗はため息をついて走り出した。







「菊から連絡が入った。第一部隊がかなり強い敵と交戦中らしい」


鏑木高校の昼休み。

誰もいない屋上で『キング』のメンバーは集まり話をしていた。


中心は梅川樹貴。

『キング』が『キラーグループ』と関わりを持ったのは樹貴の存在があったからだ。

判断は樹貴に委ねられている。


自分の問題に決着をつけるのか、つけずに逃げる道を選ぶか。


「君はどうする?」


拓馬が問いかけ、樹貴は顔を上げる。


流唯、希良梨、拓馬。

三人の視線が自分に集中していることに怖気付かずに答えた。


「行こう」







激しい騒音が鳴り響く。

その中心で、二人の男が対峙する。


突き出されたハンマーを避け分身を出してクマに投げる。

しかし投げられた分身は弾き飛ばされ何事もなかったかのようにハンマーを振り下ろす。

新しく分身にオリジナルである俺を蹴り飛ばさせハンマーを避ける。


地面にめり込んだハンマーを俺に向かって蹴り飛ばした。

向かってくるハンマーを避けると目の前にはハンマーを手にしたクマが立っている。

振り下ろされる凶器を避けカウンターで顔面にパンチを入れた。

しかし、ダメージはまったくないらしく、ゼロ距離の状態で膝がまともに腹に入った。


飛んでいく俺の体は路上駐車していた車のフロントガラスを突き破り中に投げ入れられた。


「ああ、いって」


そろそろ体が悲鳴を上げ始めている。

動くだけで痛むし。


クマの攻撃は一撃一撃が途轍もなく重い。

あの体格は見せかけだけというわけではないのがよく伝わってくる。


それに防御力も高いときている。


こちらの攻撃が面白いくらいに通用しない。


「お前、本当に高校生か?それにしてはやる」

「まあ、こちとら鬼教官のもとで訓練してるんでな!」


車のハンドルを力づくで取り外しぶん投げる。


ハンマーで防ぐクマに飛びついて両足で蹴りを入れる。

顔に当たったもののやはりあまり効果はないようで足を掴まれた地面に体を叩きつけられた。


「がっは!」

「………………妙だ。さっきより威力が上がったな」

「お、やっぱり気づくか?」


言葉を返すとグンッと足を引っ張られ首に腕を打ち付けられた。

後ろ向きに一回転して地面に落下した。


そろそろ死ぬかもしれないんだが。


「やはり手加減はしてられないな。子供とはいえ………?」


言葉を途切れた瞬間、クマの顔面に拳がぶつかった。

それは紛れもなく俺のものだ。

しかし威力はさっきまでの比じゃないだろう。


さっきのではそこまで効果がなかったので今度はに一気に増やした。

結果クマの体は吹き飛び、地面に落下した。


「やはり、侮れない、か。キラーの言う通りだな」


何を言ったのかよく聞こえなかったが、ゆっくりと立ち上がるクマはハンマーを構えた。

雰囲気はさっきまでと変わらない。

本気でこちらを潰す気でいる。


「羽宮信の能力は分身と聞いていたんだがな」

「使い方だよ。そっちのハンマーもなんか使い方があんだろ?」


タネがどんなものかは分からないがあれがただのハンマーじゃないのはわかっている。


なんでかは分からないが、あのハンマーで攻撃を受けるたびに普通じゃない重さを感じる。

威力が何かに増大されているような。


「ないな。このハンマーはただ同じ種類の道具を吸収して性能を上げることしかできない。あとはそうだな、振り回して殴るくらいか」


吸収して性能を上げる?

ハンマーだと、やはり威力の増大だろうか。


「こっちのタネは聞かないのか?」

「答えを知ってばかりでは面白くない」


舐められてるのか舐められてないんだかよく分からない。


「それに、そんなことで勝敗をわけさせるつもりもない」

「あっそ」


俺は前方に向かって走る。

同じくクマも向かってくる。


リーチが長いクマのほうが動きが速かった。

持ち手が長いハンマーの持ち方を考えればそうなるのは当然か。

今度はただ振り下ろすのではなく横向きに振るってきた。


ジャンプで避けた俺は蹴りの行動を取るが避けられてしまう。

これ初めて避けられたんじゃないのか?


しかし迂闊だった。

ハンマーを横向きに振るったことでクマは威力を殺すことなくハンマーを振り続けられる。

横から向かってくるハンマーを姿勢を低くして避ける。

あれは当たればやばいのは変わらない。


低い姿勢のまま拳を突き出す。

クマの動きは間に合わず直撃させられた。


わずかに揺れたクマの体。


「やっぱ力任せが一番効果的か」

「このっ………!」


ハンマーの長さを考えれば、俺の距離で戦えば有利になる。


今の出力は五人分を維持している。


分身を出すたびに時計に表示されている数字は減っていく。

応用を使っても同じことだ。

維持しているうちは減らないが、時間制限はやはりついている。


俺の能力の真価は魔力のストック。

分身という能力によって発生した付属物みたいなものだ。


俺が操る分身は魔力の塊で、それを出すために俺一人が有する最大の魔力量をストックできる。

分身を出すにはストックした魔力を一つ分、つまり俺一人分消費しなければならない。

腕時計で写すことができる数字はストックしている量を表しているのだ。


母さんは俺のそのことを知っていたから時計にこんな機能をつけたのだろう。

ていうかどうやって作ったのかすごい気になる。


俺が編み出した応用はストックした魔力を俺の体で使うこと。

それも分身数体分を一度に。

利用できるまでにするにはかなり時間がかかった。


そうすることで俺は自分の体の性能を上げることができるようになった。

景のように純粋に怪力を発生させるのではなく、体の性能を上げるという点から体にかかる負荷は存在しない。

魔力消費による負荷を別にすればの話だが。


今は五人分を維持しているため、俺の体は五人分の性能を発揮しているということだ。



「あんまり無茶はしたくねえから短期決戦で行くぞ!」

「こちらも同じ気持ちだとも」


至近距離で有利になるかと思われた攻防は互角だった。

長いハンマーを自在に操るクマの動きは慣れきったもので、俺が渡り合っているのが不思議なくらいだ。


俺一人では勝てないわけだ。


しかしハンマーの攻撃だけは避けなければ。

こんなのお試しの防御が失敗すればひとたまりもない。


振るわれた素手を上半身を後ろに傾け避けると続いてハンマーが顔に向かってやってきた。

首を傾け避けると避けた先に拳がやってくる。


さっきよりも攻撃の激しさが増している。


やってきた拳が俺の顔を捉えた。

しかし思ったよりも重くなく、耐えられるレベルではあった。


その時、体の感覚が変わったのがわかった。

元に戻っている。

やっ。


ばい、と思う瞬間脇腹を蹴られた。

体が吹っ飛び建物の壁を破壊。

地面に転がる体に魔力を回す。


さっきと同じく五人分。

調子が戻った体を起こすと向かってくるクマが目に入った。


体を動かすのが間に合わず、その振るわれたハンマーが容赦なく俺の体に衝突した。

口から血液が吐き出される。


全身に響き渡る痺れ、痛み。

体内の臓物が揺れる感覚。

何から何まで気持ち悪く、血と一緒に別のものまで吐き出してしまいそうになった。


「ぐ、がぁ…………………」


体を動かせず膝から崩れ落ちる。

今のは致命的だ。


恐れていた、無視できないダメージを感じる。


「最悪だ、この」

「お前の判断は正しいよ。これに当たるのは勝敗を分けるにも等しいことだ。だが全てを避けるのは困難だ」


本当に予想通りだった。

これは受けすぎると死ぬ。

今の一撃で死んでないのが不思議だ。


「しかし、今ので吹っ飛ばしたつもりだったんだがな。防御でもするつもりだったか?」

「………………そのつもりだったんだけどな、うまくはいかなかったわ」


死ぬほどきついが、それでもまだ倒れるわけにはいかない。


「いい目だ。本当に高校生とは思えない」

「褒めてもなんも出ないぞ」

「残念だ。お前のような者が味方にいれば、俺も少しは楽しむことができたかもしれないな」

「どうでもいい話すんなよ気持ち悪い。あんたそういうタイプじゃないだろ」


ダメージが大きすぎる。

いま応用を利用したところで体は動かない。


どれだけ体を頑丈にしたところで、人間が耐えられるダメージに大きさは変わらない。

しかし。


「それに」


ハンマーを掴む。

力の限り握りしめると、引き離そうと引っ張るクマだが俺は離さない。


動揺しているクマは俺を見下ろす。


俺はそんなクマを見上げる。


「終わった雰囲気出すな。まだ俺はやれる」


衝撃がそこら中に伝わる。

殴り飛ばしたクマに飛び蹴りをくらわせる。


両腕を胸の前でクロスして受け止めたクマは驚愕の顔で俺を見る。


「お前………!?」

「苦しいけど、耐えないとなあああ!!」


今にも吐きそうでしょうがないほどにきついが、敵を目の前にして黙るわけにもいかない。

休みたがっている体を無理やり動かし攻撃をつづける。

拳と拳のぶつかり合い。


五人分の性能でクマと互角に殴り合いボロボロになっていく。

隙を見て俺はクマの背後に回り込みながらポケットから出した長い鉢巻きをクマの首に引っ掛けてから思いっきり引っ張る。


首が閉まると同時に体が引っ張られるクマは後ろを向いて体のバランスを取り直す。

その隙にクマの顔面に膝を打ち付けた。


そのとき、一瞬切れた魔力の効果をもう一度発揮する。


するとクマは突然手元に現れた黒いハンマーを振り下ろした。

それを避け地面に打ち付けられたハンマーを蹴り飛ばし武器を取り上げる。


しかし意味がなかったようで、再び手元に現れた黒いハンマーに驚きを隠せない。

どうやらいつでも手元に戻すことができるようだ。

ハンマーを奪えたのは今のが初めてだったので気づかなかった。


しかしまずい。

驚きのせいで反応が遅れた。


クマが振るうハンマーを避けるのが間に合わない。


咄嗟に体が動く。

体内の魔力を回し、十五人分の性能を引き出した体で向かってくるハンマーを足の裏で蹴る。

強い衝撃同士がぶつかったことでそれが周りにまで伝わり、地面や壁が凹み、強風が発生する。


「うぶっ」


吐き気が込み上げる。

やばい、魔力消費の反動が表に出てきた。


倒れそうになるのを堪え、いまだに維持できている十五人分の性能で拳を振るう。

クマも攻撃をしかけ俺をねじ伏せようとする。

お互いの拳がお互いに襲いかかり、強い衝撃と共に鈍い音を発した。


俺とクマの動きが止まる。

お互い力尽きた、のではない。

力尽きたのはクマだけだ。


「まさか、俺が負けるとは」


俺の十五人分の腕力で殴られたダメージは軽くはない。

それはクマを戦闘不能にさせるには十分だった。


クマの拳は俺に当たることはなく、俺の頭を掠めて通り過ぎていった。


「俺も年、か……」


そう言ったクマは背中から地面に倒れた。


相手が戦闘不能になったのを確認した俺は崩れ落ちて尻餅をついた。


安心して気が抜けた途端、口の中から胃の中のものが逆流してきた。

我慢することはせず口から吐き出して楽になる。

気持ち悪さはまだ残っているが吐かないよりはマシだ。


「慣れねえな、なかなか」


体内の魔力を完全に失えば、人は死んでしまう。


その原理から予想はできていた、魔力消費によって体にかかる負荷。


体の性能を上げる応用は俺の体一個分の魔力をストックし、それを消費する。

通常はそのストックした魔力を分身として外に出して外で消滅するが、応用は違う。


ストックした魔力を体内で消費している。

これが意味することは、俺は死んでいるということ。


正確に言えば、分身が体験する死の感覚を俺自身が味わうことになる。

それを一度に五人分とか十五人分とかで行えば、そりゃ体が悲鳴をあげて吐いてしまう。

頭がおかしくなったって不自然じゃない。


これが俺が編み出した応用の欠点。

私の感覚を味わうのは、決して気持ちの良いことではない。


「あんまり酷使はしない方がいいよな」


少しくらいなら感覚を受ける自覚も芽生えないのだが、連続して行うなどして酷使するとこのように嘔吐ぐらいしょっちゅうしてしまうことだろう。


「不便な能力だよまったく………」







だいぶ気分が直ってきたので行動を再開する。

再開、とは言っても俺たちの役目はここまでだ。


なのであとは帰るだけ。


歩きだそうとしたとき、ポケットに入っている携帯が揺れた。

どこからかメッセージが届いたらしい。


スマホを出して確認すると、それは一斉送信のメッセージだった。


「古矢さんの……?」


送り主は古矢さんだった。

どうやら『能力機動隊』全体に送られたものらしい。

書かれたメッセージは一言で、とても簡潔だった。


『助求』


とても正常な文とは思えない、というか文ですらない。


「トラブル、だよな」


第一部隊が応援を求めるほどの事態になっているということだ。


「信!」


声が聞こえた方に顔を向けると、そこには景と巴と、美濃がいた。

あれ、先輩は?


「おい景、先輩は!?どこだ?」

「死んでないから安心しろ。魔力切れ起こした挙句ちょっと無理したみたいで危険だから、救急車呼んで運んでもらった」


それはそれで安心できないのだが………。


しかしそうか、先輩はちゃんと勝ったらしい。


「そうか。ならまあ、ギリギリいいか。今はそれより」


俺は景たちに古矢さんからのメッセージを見せた。

第一部隊と協力関係を結んだときにグループ入りしたメッセージのため詳しい説明は不要だ。


「これ、ただ事じゃないよね」


巴が言葉を漏らす。

俺はそれに静かに頷いて答えた。


「どうするリーダー?」


景が俺に意見を求める。

ここから先のことは一切指示を受けていない。


しかし、彼女たちが助けを求めているのなら、それだけでも十分行く理由になる。


「俺は行くけど、お前らに強制はしないぞ」

「バカ言わないでよ。私達も行くよ」


美濃がみんなの意見を代弁した。


「わかった」







キラー、モノ、シュウジ。

一人でさえ命の危険を感じさせる相手が三人。


特にキラーとモノはレベルが違った。


キラーは一人で蓮生を弄ぶように抑えている。

視界に入るだけで相手を蹂躙できる蓮生を、難なく簡単に。


同時に蜜に襲いかかるシュウジとモノ。

銃弾は全てモノの刀によって防がれた。

肉弾戦でも戦えないことはないが、二対一では牽制も必要になる。


武器なしでは牽制は難しい。

蜜は正面から二人を迎え撃つしかない。


左右から挟んで向かってくるシュウジとモノ。


刀を持っているモノは姿勢を地面スレスレの高さまで低くしている。

対してシュウジが向かってくるのは斜め上の位置から。


逃げたところでどちらも遠距離攻撃が可能という厄介さ。


飛んでくる斬撃は通常の刀よりも破壊力が抜群に思える。

少しでも気を抜けば慌ててテレポートで逃げてしまいそうになる。

無闇にテレポートを使えば逆に相手に隙を見せることになるのは経験でわかっている。


左右から向かってくる衝撃波と居合いの斬撃。

あえて自分から距離を詰めることで回避に成功する蜜はシュウジの服を引っ張りモノに投げつける。


左足で踏み込んだモノは刀を鞘におさめていなかった。

それによって動きが速まった。


避けきれないと判断した蜜は後ろに一歩退がって刀を避ける。

その後二回三回と振るわれる斬撃を避けて対応する。

隙を見て蹴りを入れるが腕でガードされ反撃が向かってくる。


「強いっっ!!」

「お前も強いじゃんかよ」


そういうとモノが横へ移動した。

それと同時にモノの背後から向かってくる衝撃の存在に気づきテレポートで避けた。


移動先を確認したモノが突然目の前に踏み込んでくる。

その刀が鞘におさめられているのを確認して冷や汗が流れるのを感じる。

抜き身ではないということは居合いが向かってくるということだ。


しかし今度のは速さが尋常ではなかった。


刀の動きがまったく見えなかった蜜の腹に深い切り傷が刻まれ、出血を起こす。

それで終わりではなく、追加の斬撃が繰り出され顔を横に向けることで頬に刀が掠めるだけで済ませる。


「刀、使い慣れてるんだ?」

「俺の得意分野だからな。刀ならお前にだって負けねえ」


この状況、かなりまずい。

蜜は勝てないことを確信していた。


悲しいことにシュウジのことはそこまで警戒しなくても済むが、キラーとモノは別だ。

二人はおそらくまだ本気を出していない。

現に先ほどのモノの居合いのような攻撃があるのだ。

あれは何か特別な効果によるものではなく、純粋な運動神経。

モノ自身の身体能力が可能にしている芸当だ。


もしもあれが能力なら攻撃に微弱ながらも魔力を感じるものだが、さっきからそれが感じられない。


そして一番まずいのは蓮生だ。

現状キラーと一対一の状態だが、手も足も出ずに蹂躙されている。

血の出血量も酷いし、彼の体はふらふらだ。


助けに行かなければとテレポートで飛んでいくが。


「やあ」


飛んでいくたびにその先にキラーがいる。

向かってくる足を避けると後ろからさっきを感じ上に跳ぶ。

すると蜜の下を風の斬撃が通り過ぎていき、直後モノが近づいてきてもう一度居合切りを繰り出した。


回避に成功するが、また蓮生から引き離されてしまった。

さっきからずっとこの調子。

近づけばキラーとモノに邪魔され、同じ構図に戻される。


苛立ちを感じてしまうほどに蓮生を助けられない。

触れることすらできない。


「くっ、蓮生くん……」

「人のこと心配してる場合かよ」


刀を肩にかけるモノは余裕そうな笑みで蜜を挑発する。


「そんなに男に気を取られてると、俺に斬られちまうぞ」


こんな奴にかまっている暇などないと気持ちが焦り始めている。

蜜はそんな気持ちを押さえつけてモノに集中する。

よそ見をしていたら本当に殺されてしまいかねない。


「集中できてるようでできてない、な」


モノは構えて鞘から刀を抜いた。

刀身の長さが絶対に届かないものであるにも関わらず、蜜の体に新たな傷が刻まれる。

右脇腹から左肩にかけて斜めにできた傷。

口からも血を吐き出して地面に片膝をついた。


「ぐ、ああぁぁ………」

「蜜……!!」


蓮生が遠くから叫んだ。

しかしよそ見をしてしまったことで相手に隙を見せてしまった。


銃弾が発砲される。

それは蓮生の眼球に直撃し左目を潰してしまった。


「………え…………………?」


その現場を目にし、蜜は頭が真っ白になる。


地面に倒れ、潰れた目から血を流す蓮生によって思考も視界も埋め尽くされる。


「…………だめ……」


これ以上はダメだ。

このままでは、本当に蓮生が死んでしまう。


急いでテレポートで蓮生のもとに飛ぶ。


「ここに来たら、挟み討ちじゃないか」


まるでそれを待っていたかのように飛んできた蜜に詰め寄る。


キラーの足元には蓮生。

今は気を失っているようで行動不能。


蓮生に指一本でも触れれば逃げられるのに、できない。


前方にはキラー。

後方にはモノとシュウジ。

一瞬でも隙を見せれば終わる組み合わせだ。


やむを得ずテレポートで逃げた。


逃亡先はモノの頭上。

拳を振り下ろそうと体を動かすと、モノの横に移動してきたシュウジが衝撃波を蜜に直撃させた。


「邪魔っっ!」


苛立ちからつい心の中の声が漏れた。


まずい状況。

蓮生が倒れたことで、実質戦いの構図は三対一。


一人でも死の危険を常に感じさせてくる相手が二人になった。

ついでに少々危険性のある者が一人。


武器もない。

テレポートにもあまり頼れない。

ほぼ負けが確定している戦いだ。


どうするかの選択を迫られている。


戦って死ぬか、逃げて恋人を見殺しにするか。


「そんなの決まってる」


蜜の選択は当然前者だ。

自分が死んでしまうとしても、蓮生は絶対に逃す。


蜜がいる限り相手は蓮生を殺しはしない。

蓮生はテレポートですぐに逃走できてしまう蜜をこの場に留めておくための人質だ。


「待ってて、助けるから……!」


四人が同時に動き、再び衝突しかける。

その間に。


外からガラスを突き破って間に乱入してきたのは『二次元サークル』だった。







建物の中に跳んで入ると同時に状況を確認する。


絶望的にしか見えなかった。


真辺さんは気を失っているのか血溜まりの上で倒れている。

古矢さんもかなりボロボロである。

相手は三人。

うち一人はシュウジだ。


よくわからない組み合わせだがすぐに状況は掴めた。


俺が出した分身を美濃がシュウジに投げつけた。

それは衝突する前に、刀を持った男の居合いによって真っ二つにされた。

人間業ではない威力と規模の居合い。


その斬撃が、俺の元まで届いていることに気づけなかった。


すると古矢さんが俺のすぐ近くにテレポートで飛んできた俺を下に引っ張った。

それによって斬撃は回避できたが、俺の後ろの天井や壁に大きな傷がつけられた。


「な………!?」


理解不能な現象に俺たちは声をあげる。


しかし驚いている暇などなく、目の前にはシュウジが立っていた。

今まさに足を振るおうとしている瞬間で、古矢さんが俺たちの前に出て足を受け止めた。

すると古矢さんの後ろに回った美濃が野球ボールを持った腕を振る。


その気配を感じた古矢さんは姿勢を低くして腕を避けると、美濃が至近距離からシュウジの顔面に野球ボールを投げた。

顔面に当たりそうになって咄嗟に痛みに耐えながら片手でキャッチするシュウジ。

それ追い討ちをかけるべく俺と巴が前に出る。


同時に古矢さんが横に出て行った。

なんだ、と思い視線が移った。


そこには刀を持った男が構えをとっている姿が見えた。俺と巴は危険を察知して咄嗟に頭を下げた。

対してシュウジは跳び上がり、飛んでくる刀の斬撃を避けた。


動きを止めてはダメだと思った瞬間、俺のすぐ横に男がいた。


不気味な笑顔で俺を見る目を見て身を退こうとすると、気づけば足を振るっていた。

それは俺ではなく、俺の後ろにいる巴を蹴り飛ばしていた。


咄嗟に逸らしそうになった視線を固めて前に出る。


「よそ見をしなかったね」


よく聞こえなかった声を無視して魔力を回す。

五人分の出力で拳を振るう。


素早く男の後ろに回っていた景も一点集中で怪力を発揮している右腕を振るった。前後挟まれた状態の攻撃、だったのだが。


俺と景の全力の一撃に対し、男はカウンターをかけてきた。

その場から移動せず前後から向かってくる攻撃を避け、カウンター攻撃を四回。


景の肋骨を殴ってへし折り、二の腕部分を横から蹴って地面にねじ伏せた。

俺は拳の一撃で顎を外され腹に蹴りがめり込んだ。

吹っ飛んだ俺の体は壁にぶつかり地面に倒れる。


体に発生した外傷から判断できないほど、男の動きは見えなかった。

たった二発で俺も景も完全に薙ぎ倒された。


「みんなっ!」

「美濃ちゃん!!」


古矢さんの声を聞いた美濃は反応が遅れた。

胸に横一直線の傷ができ、体は横へ投げ出された。


「くっ………」


意味のない参戦。

容赦なく一瞬で粉砕された『二次元サークル』は地面に倒れ、立ち上がることができなくなる。

これは選択を間違えた。


俺たちはここへ来るべきではなかった。


「ふう、まあ『二次元サークル』もこの程度だね。素人の子供しかいない組織だと仕方ないけれど。それでももう少し頑張ってくれると思ったのに」


頑張れるわけがない。

今の俺たちがどれだけ踏ん張ったとしても、相手にとっては周りを蚊が飛んでいる程度にしか感じられないだろう。


「でも腕あげてんな。至近距離で野球ボール投げられた時は焦ったわ……」


野球ボールを投げ捨てたシュウジは本当に感心しているようだ。


しかし刀を持っている男ともう一人の方は余裕の笑みを崩していない。


外された顎を戻す。

体を動かしたい気分だが、そううまくいかない。

俺は分身を出して肩をかりてなんとか立ち上がる。


「やるのかい、羽宮信?」

「まあ、やらないわけにもいかないだろ」


一人じゃ立てないくらいにはきついが、体に鞭を打つのは得意だ。

景も立ち上がったようで、再び俺たちは相手の前後を挟んだ形になる。


分身が俺を投げ飛ばした。

景が前方には踏み込んだ。


怪力一点集中の右拳。

十人分の脚力を詰め込んだ左足。

一斉に振るうそれを、今度は避けることもせず片手で受け止めた。


苦労している感じもなく、涼しい顔で難なく。


しかし掴まれた。

これは命の危険がっ。


体に十字型の傷が刻まれた。


だが俺は、視界に映った光景が信じられなかった。


「これは、やべ………」


呟いた景の体には左脇腹から斜めに切り傷がつけられ、右腕は切断されていた。


ナイフを取り出し、俺の体に十字型の傷をつけ、景の右腕を切断。

その一連の行動を目で捉えることすらできない。


クマのときとはまったく別の、勝てないという絶望感。


地面に倒れた俺たちの名前を叫ぶ巴の声が聞こえる。

立ち上がれない。


「さあ古矢蜜。君はこの状況、どう切り抜ける?」


絶体絶命のこの瞬間。

俺たちはただ見ていることしかできなかった。


「じゃあ、まずはそうだね。モノ、頼めるかい?」

「はいはい」


返事をしたモノと呼ばれた刀を持った男が動いた。

古矢さんの目の前から消え、一瞬で景のもとに。


「まずは一人、だね」


薄れ始めた視界の中でモノが刀を構えている。

あれは居合いの構えだ。

遠くでは古矢さんがちょうど視線をモノに向けたところだった。

今からではテレポートでとんでも助けられない。


「け………い……」


呟きながら手を伸ばす。


しかし、その手が届くことはない。







場が静まり返った。

まるで世界の時間が止まったかのように、全員の動作と思考が停止する。

その光景を見て、咄嗟に、無意識でも動けるものはいなかった。


今まさに刀を鞘から引き抜こうとしているモノ。

誰にも止めることはできない。

誰かが動いたとしても、何もできず、地面に倒れる景を真っ二つにして終わり。


には、絶対に止められない。


男は平然と、元からそこにいたかのように、当たり前に立っている。

モノの頭の上に片足を乗せて立つ男はモノに重さを感じさせない。

だからモノも反応が遅れた。


「間に合った、とは言いずらいか。まあ死んでないみたいだしセーフだよな?」


『能力機動隊』第三部隊副隊長。

加川蓮斗。


音も気配もなく、その男は絶対絶命の窮地を救いにきた。

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