模擬戦

 互いに動き出した僕とエルピス。

 エルピスは一切迷うことなく僕との距離を詰めて、その手にある木刀をこちらに向けて振ってくる。


「よっと」


 それを僕は転移で楽に回避。


「ハァァァァアアアアアアアアアアッ!」


 そんな僕に対して、魔法でもって強化した体でもって切り返し、自分へと木刀を振るってくる。


「ふむ」


 動きはずいぶんと良くなったな。

 魔法があると、身体能力がずいぶんと高くなった。

 だが、強化魔法の出力であれば、僕の方が高い。


「ぐぬっ……」


 エルピスに対して、圧倒的な身体能力でもって、僕は彼女に迫っていく。

 動きも、技も悪くない。

 何なら、それらであれば僕を上回っていてもおかしくないが、魔法の効果が段違いだった。


「はぁっ!」


「あぁっ!?」


 僕は自分に対して、エルピスが振り落とした剣を受けとめて、そのまま強引に弾き飛ばすことで彼女の態勢を大きく崩す。


「うそっ!?」


 そして、そんなエルピスの足元を掠めとるように風魔法を発動させて彼女の体を浮かせて、地面へと倒す。


「これしきのことで……ッ!!!」


 地面へと体をつけ、手をつけたエルピス。

 そんな彼女へと僕は更に魔法を発動。

 地面を動かして、彼女の腕を絡めとる。


「はい」


 そんな中でも、エルピスは諦めず強引に力で己の手を開放しようと動くが、それよりも僕が彼女の首元に木刀を突きつける方がはるかに速い。


「これで終わり。僕の勝ちだな」


「ぐぬっ……ここまでの差が」


「持っている手札の違いだな」


「……剣でさえ、互角なのだから、魔法もあれば……くぅ!」


 あっさりと敗北したエルピスはその結果を前に歯噛みする。


「さて、と」


 そんな彼女の様子を無視して、僕は話を切り出す。


「やる前の約束は覚えているよね?」


「……っ!?」


 悔しそうだったエルピスは僕の言葉を受け、一気に現実へと立ち返って頬を真っ赤に染める。


「え、えぇ……二言はないわよ」


 だが、それでも、エルピスは僕の言葉に頷く。

 二言はない、と。


「おう。それじゃあ、アフトクラトル辺境伯が今頃、クーデターを起こしている頃だろうから、協力してくれや」


「えっ……?」


 そんなエルピスは僕の要求を聞くなり困惑の声を浮かべるのだった。



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