堕ちた黒きの事件

 真面目な表情で僕の前に立つポワン。

 

「どうしたの?」


 そんな彼女へと僕は疑問の声を投げかける。


「あの日のことを、覚えておいででしょうか?」


 ポワンはそんな僕に対して、真面目な切り口で話し始める。


「あの日?」


「はい。エルフの国を揺るがした堕ちた黒きの事件です」


「あぁ、それはもちろん。僕がエルフの国と関係を持つようになったきっかけだからね。覚えているよ」


 堕ちた黒きの事件。

 それの概要を簡単に話すのであれば、エルフの国の根幹と言ってもいい、信仰の対象となっている自然を司る精霊が攻撃された事件である。

 ゲームの後半に姿を現し、物語の核心として進んでいくことになる特別な種族『悪魔族』の暗躍により、精霊が暴走させられそうになっていたのだ。

 それを原作知識として前もって知っていた僕は遠慮なく介入したのだ。

 ゲーム本編時には悪魔の手によって暴走状態となった自然を司る精霊の手で半壊状態になっているエルフの国を僕は救ってたことになる。

 だからこそ、僕はエルフの国でデカい顔を出来るのだ。


「ティラン様が生け捕りにし、我が国の方で拘束していた事件を起こした当の本人。通称、黒き者が逃亡を図りました」


 事件を起こした悪魔……とはいえ、悪魔が一般的には現実に存在しない神話上の存在として扱われていることもあって悪魔扱いされず、それでも何の種族かもわからない。

 そんな存在を黒き者と呼んで、拘束下に置いていたエルフたち。

 エルフたちにとってその黒き者は数百年ぶりに国家へのダメージを与えた存在として、慎重に扱われていると思ったのだけど……。

 

「およ?逃げられたの?」


 そんな奴に、逃げられたの?ヤバくね?

 というか、逃げたの?

 逃げられるようにしたつもりはないのだけど?


「はい、逃げられました。本当に、つい昨日の夜のことです……せっかく、生け捕りにしてもらったというのに申し訳ありません」


「いや、別に僕のことはそんな気にする必要はないけど……ただ、君たちの方は大丈夫なの?信じられないような一大事じゃない?」


「……はい。そうです。ですので、この場で改めて、恥を承知で頼ませてください。どうか、黒き者の捕縛の為に協力してくださりませんか?」


 心配げな声を上げる僕に対して、ポワンは深々と頭を下げながら、縋るように言葉を漏らす。


「うん、それくらいならいいよ。あの四人も巻き込んで、協力してあげる」


 そんなポワンの言葉に対し、独自の考えを持つ僕は彼女の申し出を快く引き受けるのだった。



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