学び

 エルフの国。

 基本的には自然と共に暮らし、永遠と穏やかな生活を送っているその国であるが、その実。

 有する軍事力はトップクラスである。

 平和とは武力によってのみ構築される。

 世界で何があろうとも森に住まい、他者との交流を断ってきたエルフの国が持つ軍事力は神かがっている。

 長い年月を生きるエルフたちが持っている経験と知識。

 エルフたちが数百年生きて積み上げている魔法の技術。

 それらは世界でトップクラスであり、国民の一人一人が際立った魔法使いであるエルフの国はこれまでどんな国家から攻撃を受けたとしても、容易く返り討ちにしていた。

 幾つもの乱世を経験したこの世界で、最も長く独立を保ち、歴史を紡いできたのがこのエルフの国だ。


「ティラン様のご学友さまのみなさま。おはようございます。長老様より下された命に従い、私たちがご学友さまの訓練を担当させていただくことになります。あの時、ティラン様より受けた恩。それを返せるよう、奮起してまいりますので、お任せください」


 そんなエルフたちの国に来て、やることと言えば魔法の訓練が一番だろう。


「はいっ!」


「うむっ!」


「……ここが、ティランの力の源泉」


「お願いしますっ!」


 アルマたち四人の教師役として長老様の方から派遣されてきた男、アグロスの言葉に彼女たちは頷く。

 アグロスは確か、今まさに命落とすところだった彼の妻と子供を一回、僕が救ってあげた人だったはずだ。アグロスなら教師役として完璧だろうな。うん。

 完全に任せてしまってもいいだろう。


「ふー」


 ちょっと離れたところからアグロスにアルマたち四人を眺める僕は息を吐く。


「ちょっと強くなってもらわねぇとなぁ」


 色々とゲームの主人公であるリアンが経験して強くなっていくイベントをスキップしたいのだ。

 それで成長できなかった分、ここでしっかりと強くなってもらいたい。

 ちゃんと彼にはラスボスと戦うという面倒事を処理してもらわないと困るからな。

 僕は別に女でもないラスボスに対しては、まるで興味がない。


「……ティラン様」


 そんなことを考えながら、ぼーっとアルマたちのことを観察していた僕は、後ろから一つの声をかけられる。


「ん?何?別に、お前とは何かするつもりはないけど?」


 その声。

 それは、初日に泣きながら逃げだして行ったポワンだった。


「少し、お話があります」


「およ?」


 そして、その彼女は至って真面目な、エルフの王族としての表情を携えてそこに立っているのだった。

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