嫉妬

 僕は自分の欲望のままにフルボッコとし、そのトドメとしてアルマからサンドバックのような扱いを受けた副生徒会長であるミークが医務室へと運ばれていった後。

 その場は自然と解散になった。

 リアンは平民用の寮に戻り。


「信じられないわっ!何で入学式早々新しい女を二人もロックオンしているの?あまりにも早すぎるわよ。もうちょっと我慢することは出来ないのかしら?何でこんな獣のように理性がないのかしら?色々と信じられないわよっ!本当に、この入学式という祝いの場くらい控えてほしかったわよ、本当!本当に信じられないわっ!」


 僕は自分の隣で嫉妬心を爆発させているアルマの隣で貴族用の寮へと帰宅していた。


「ほら、一人はボコボコに僕が打ちのめした後だし、もう恋愛フラグは立たないんじゃない?」


「あぁいう手合いは打たれ強いですわっ!今頃、医務室の方で自分の至らなさの方を勝手に反省して、ティランへの怒りは残さない面倒なタイプの人間よ。を信じられないわっ!」


 わかる。

 僕もそのタイプだと思う。

 そして、だからこそ、僕はあいつをボコボコにしてやった。

 ここでおっぱいを震わせても、恋愛関係に持っていくと判断しての行動だった。


「好き勝手にボコボコにしていたのはアルマもだったけどね?」


「あれだけボコボコにされていたらどっちだって同じよっ!」


「わぁ……」


 何て勝手な。非常に自己中心的な発言である。

 ちょっと引くわぁ……。


「ちょっと!?おっぱいを震わせるため、好き放題ボコボコにしていた貴方が引くんじゃないわよっ!」


「公衆の面前の中、いきなり大きな声でおっぱいっていうのはちょっと……」


「理不尽よ!」


「あっはっはっ!」


 僕は自分の隣でずいぶんと面白い反応を見せてくれる打てば響くアルマと共に、寮への帰り道を歩くのだった。


 ■■■■■

 

 ティランが副生徒会長であるミークをボコボコにしていたのを見ていたのはリアンとアルマだけじゃない。

 あの場には生徒会長たるエルピスも確かにいた。

 自分が何も言わぬままに雰囲気で勝手に解散となった中で、一人。

 室内武道場に残っていたエルピスは───。


「良いなぁ……」


 ───ぼそりと言葉を漏らす。


「あぁ、良いなぁ、実に良い。羨ましい。自分よりも強き者から安全圏の中で戦い、経験を得られるなんて。あぁ、羨ましい。羨ましいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい。妬ましいっ!なんて羨ましい!なんでずるい経験なんだっ!?あぁ、良いなぁ、良いなぁ、ミークだけ。同じ生徒会を志す仲間だというのに、何であの子だけがぁっ!はぁ……はぁ……はぁ……本当に妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい」


 言葉を、怨嗟を、漏らし続ける。


「ティラン」


 エルピスが見ていたのは、リアンとアルマの二人とは違い、木刀を振るわれるミークではなく、圧倒的な力を見せるティランだった。


「すぅー、はぁー……なぁ?アフトクラトル辺境伯家のぉ……君は、私にとってのダイヤモンドなのかい?」


 散々とミークを打ちのめしていた木刀の剣先を手に持ち、そのティランが握っていた柄の匂いを嗅ぐエルピスは火照った表情のまま、粘っこい言葉をこの世界の残すのだった。

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