生徒会長
僕がゲームの主人公であるリアンが虐められている現場に介入し始めていた時。
「おいっ、お前らっ!そんなところで一体何をしているんだっ!」
「んあっ?」
自分たちの元に近づいてくる一人の女子生徒の方に視線を向ける。
視線の先にいるのはポニーテールにまとめられた黒髪で、赤い瞳を持った上級生であることを示す赤のリボンをつけた少女だった。
ちなみに、学園の制服はマジで日本のものにそっくりであり、男子の場合はネクタイ、女子の場合はリボンという形になっている。
そのネクタイとリボンには刺し色が入っており、その色によって学年を判別できる。
今は一年生が緑、二年生が青、三年生が赤となっている。
「私はポタモス剣魔学園、生徒会の会長。エルピス・マルダムールだ。入学式という祝いの席でお前たちは一体何をしているんだ?」
そんな女子生徒は生徒会長であるとの名乗りを上げていた。
「……あぁ」
そういえば、こんなイベントだったけか。
生徒会長の存在を見て、僕はようやく思い出す。
「……ミスったか?」
これはゲームで一番最初のイベント。
平民であることを理由に他の生徒から虐められていた主人公が学園の生徒会長に助けられるというイベントだ。
どうやら、僕は大事な一番最初のイベントに介入してしまったようだった。
ここでの介入は今後のゲーム本編の流れを大きく変えてしまうような可能性をはらんでいると言っていいだろう……いや、まぁ、良いや。別に僕が気にすることもでないな。
むしろ、ゲーム本編の流れから逸れてくれることは好都合ともいえる。
僕はゲームの本編では殺される側だし。どうせ、流れ通りにいかないようにはしてやるのだから関係ない。
「何がミスったんだ?」
「いや、何でもないさ」
僕の独り言を拾い上げた生徒会長の言葉に首を振りながら答える。
「それで?生徒会長が何の用だ?この場は見ての通りだが」
「見てわからないから言っているのだ。殴られて気絶されているもの。腰を抜かして倒れているもの……だが、そこで倒れているのはリスボン伯爵家の次男坊だろう?平民二人が貴族を虐めていたのか?」
「あん?……あぁ、そういえば、僕は勝手に放浪していたから、知っているわけもないか」
何故か平民扱いされたことに首を傾げた僕だが、すぐにその理由を察して納得する。
「僕はアフトクラトル辺境伯家の嫡男だよ。そこのリスボン伯爵家だったか?の次男坊が平民であるこいつを虐めていたから助けてやったのさ。そうだよな?」
僕は自分のことを語りながら簡単に事情を説明し、それの正誤を自分の隣にいるリアンへと確認する。
「あ、あぁ……そうだな」
そんな僕の言葉にリアンはまだ困惑しているような態度のまま、頷く。
「……アフトクラトル辺境伯家だと?」
「そうだが?何か文句でも?」
「い、いや……そういうわけではないが。なるほど。長年、表舞台に立っていなかったアフトクラトル辺境伯家の嫡男はしっかりと学園に来たのか。何かしらの問題があるのかと囁かれていたけども、その心配は不要だったようだな」
「まぁ、不要だな。僕が勝手に家を飛び出して、世界を放浪していただけだ」
「いや、それはそれで問題だろう。何で勝手に家を飛び出しているんだ。そして、それが平然と当たり前のように受け入れられているのはかなり問題じゃないか?」
「うちの両親は細かいことをとやかく言わないさ」
父親は放任主義、母親は無能。
それが僕の両親である。
父親は子供など勝手に育て。それで悪の道に行ったら俺が殺す、というよくわからない信念で子育てに当たる人であり、母親は純粋に子育てで何をすればいいのかわからないような無能だった。
そんな両親だったからこそ、勝手に僕が五年間も家を飛び出していても問題にはさほどならなかった。
てか、今考えても母親はともかく、父親の教育方針イかれているよな。そりゃ、悪役貴族も育つわけである。
「まぁ、僕のことは良いんだよ。既にこの場はもう終わっているんだ。もう解散でいいか?」
「……あぁ、そうだな。すまなかった。どうやら、私が思い違いをしていたようだ……だが、その前にそこの平民である彼に少しいいだろうか?」
「勝手にどうぞ」
僕は視線をリアンの方に向ける生徒会長の言葉に頷く。
「俺に何か用、ですかね?」
「まず、名前を聞いてもいいだろうか?」
「名前っすか。俺はリアン、です。本当にただの平民ですよ」
リアンは生徒会長に対し、まったくもって言い慣れていなさそうな敬語を使って喋っていく。
「そうか、リアンくん」
そんな言葉づかいに対し、とやかくは言おうとしない生徒会長は真面目な表情で口を開く。
「この学園は本当に選ばれた者たちが来る天才の巣窟ともいえる学園であり、多くの貴族が通う場所だ。素直に私は君へとこの学園からの退学を進めたい。我が国における教育機関は他にもある。素直にこの学園以外をお勧めするぞ」
「ほーん」
あっ、そのセリフはこのタイミングでもいうんだ。
ゲームでも生徒会長が言っていたセリフを生で聞いた僕は変に内心で感心するのだった。
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