学園
ポタモス剣魔学園。
世界に冠する大国の一つであり、人材への投資に熱心なニンス王国が誇る高等教育機関であるその学園で学びたい者は多い。
ニンス王国の王侯貴族の子息、息女の数を超えるほどに多くの留学生が外国から訪れてくる。
だからこそ、ポタモス剣魔学園の入学式には多くの人が集まるのだ。
「ふわぁ……」
そんな入学式を僕は一切の遠慮なくサボった。
人の多いところって嫌いなんだよね。
「アルマか……先生は何処だ?」
入学式の時間中を日向の下で気持ちよく寝て過ごした僕は今、入学式後にどう動けばいいのかを知るためにアルマか先生を探して、特に当てもなくぶらぶらとその辺を歩いて進んでいた。
「ここはお前のような雑魚がいていいような学園じゃないのだっ!ささっと退学しろよっ!」
「な、何を……っ!」
「ァん!?お前のような奴が俺らに逆らうってのかよっ!」
「そうだぜっ!このお方はあのリスボン伯爵家の次男坊なんだぞっ!お前のような平民風情が逆らっていいような相手じゃないのだっ!」
「くっ……!」
そんな中で、誰かが虐められているような声が聞こえてくる。
「主人公じゃん」
何とはなしにそちらの方に近づいていくと、そこには数人の男子生徒に囲まれているゲームの主人公、リアンの姿があった。
「うへぇ……いじめ現場じゃん、不愉快極まりない」
まぁ、見ればわかる。
男子生徒の一人から羽交い絞めにされ、頬を赤く張らした状態のリアンを囲んでいる数人の男子生徒。
虐められているような、ではなく、しっかりとしたいじめの現場が僕の前に広がっていた。
「何しているの?」
流石にゲームの主人公とかは関係なくいじめの現場を見逃すことは出来ない。
無茶苦茶をしていいのはこの世界で僕だけなのだ。
「あん?誰だよ、お前」
そんな思いからリアンと、それを囲っている数人の男子生徒へと近づいていく僕に対し、彼らの中で最も偉そうな態度を見せている男子生徒の一人が声を返してくる。
「知るか、デブ」
偉そうな態度へと比例するように豊かな腹を持っているその生徒へと直球で暴言を返す僕は迷うことなくリアンの方へと近づいていく。
「……おい、そのセリフは俺がリスボン伯爵家の次男坊たるネグロだと知っての言葉か?」
全然、僕よりも爵位下やけど。
「ふんっ!」
「ふごっ!?」
実にくだらないデブの言葉を完全にフル無視してリアンの方に近づいて行った僕は、迷いなく自分の拳を彼を羽交い絞めにしていた男子生徒へと振るって吹き飛ばしてやる。
「な、何をっ!?」
羽交い絞めにしていた男子生徒が吹き飛ばされていくのを見ているネグロが驚愕の声を上げる中で。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
急に自分を羽交い絞めにしていた男子生徒が吹き飛ばされたことで一緒に地面へと倒れていたリアンへと僕は手を伸ばして、立たせてやる。
「おいっ!お前っ!こんなことして……こんなことして許されると思っているのかっ!俺はリスボン伯爵家の次男坊だぞっ!」
そんな僕へとデブは傲慢な態度で上からの言葉を並べ立ててくる。
だが、そんな傲慢な態度は基本的に僕だけが許される態度だ。
「全部、君たちに言い返してやりたいね。今までの発言はすべて……アフトクラトル辺境伯家の嫡男である僕へのセリフなのかと」
静かにデブの方へと視線を送る僕は淡々と言葉を言い返す。
「あふと、くらとる家───っ!?」
前世においては侯爵に分類できるほどの力を持った伯の一種として捉えられることの多かった辺境伯家であるが、この世界だとその性質も違ってくる。
基本的には国境地域の防衛と統治を任せられる外様の貴族であるのだが、前世との違いは辺境伯が魔法を使って気軽に中央の方にまでやってこれる点である。
中央にまで干渉出来る国境地域の防衛を行える軍事力に広大な領地を持った辺境伯というのはもはや、実質的に侯爵すらも強い立場にあるとさえ言えた。
とはいえ、外様なので影響力は基本的にどれだけの歴史がその家にあり、どれだけ中央に干渉出来たかによって決まることが多い。
「あ、あの……?」
そんな中で、僕の生家であるアフトクラトル辺境伯家は長き歴史を持つニンス王国の中でも最も古くより存在する辺境伯家であり、その歴史は我が国の現代の王朝である家よりも長い。
長年、ニンス王国の仮想敵国であり続けるヴァール帝国との国境地域を統べる長き歴史をもつアフトクラトル辺境伯家の持つ影響力はすべての貴族の中でもトップクラスである。
「そうだよ?」
そんな相手に喧嘩を売っていた。
その事実を前に、段々とデブの腰が引けてくる。
「それでぇ?お前のような雑魚が僕を前にして何をするつもりだぁい?」
「ひぃぃっ!?」
笑みと共に告げる僕を見て、完全に腰を抜かしてデブが地面へと転がってしまう。
そんな中で。
「おいっ、お前らっ!そんなところで一体何をしているんだっ!」
「んあっ?」
遠くの方から怒りの声を上げながら一人の女子生徒がこちらへと近づいてくるのだった。
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