第8話 コミュ障

「……何でいるのまだ木曜日だよ.それとデリカシーがないよ.桜.」

予想外の妹の出現に少し焦った.呼んだし,来ると言っていたが,まだ木曜日で明日も学校がある.今この場にいるわけがない.


「アイツがサボるなら,私もサボって良いでしょ.それとデリカシーが無いのはお兄ちゃんも同じだからね.それで言うことは?」

妹はそう言いながら,こっちを睨みつけた.運動神経抜群で明るく,僕と誠二以外には優しいのが僕の妹である.


「……来てくれてどうも.」


「感謝してね,お兄ちゃん.」

そう言ってピースをしていた.ご機嫌だな.でも,誠二を返すために呼んだのだけど,もしかして,サボるやつが二人に増えただけでは……いやうん,知らね.


「……」

その光景の中で秋道さんは,ゆっくり顔を上げると僕と妹の顔を見比べて,納得したのか小さく頷いていた.まあ血のつながりが分かるぐらいには似ているだろう.


妹は顔を上げた,秋道さんに気が付くとスタスタと移動して,

「はじめまして,春樹 桜.妹です.」

妹は,秋道さんの前に立つと明るく,元気よく,愛想よくそう言って頭を下げた.


「は,はじめまして,秋道 楓です」

秋道さんは,キョロキョロしながら,そうボソッと呟いた.


……なんかうん,秋道さんの事がよく分からなくなった.高校生デビューは本当らしい,話がややこしくなって来た事は分かった.まあ,でも今回は話がややこしくなったほうが良かっただろう.あの空気に耐えるなんて出来ない.秋道さんがあそこまで凹むとは思わなかった.想定外だった.


「お兄ちゃん,それで,アイツは?家?」

アイツ(誠二)は,さっき散歩していた.


「どっか散歩行くってさっき,あったけど.」


「呑気.はぁ,メンタル強いよね.心配して損した.じゃあ,私が連れて帰るから,後でね,お兄ちゃん.」


妹は,そう言うと呆れ顔で笑っていた.確かに,誠二メンタル強いよな,というか可笑しい.その強さがあるならさっさと妹に告白すれば良いのに……まあ,それは僕に言う権利ないか,気まずい状況にしたのは僕だし.

「誠二の場所,何処か分からないでしょ.何処行くか言ってなかったから.」


「大丈夫,アイツの行きそうな所なら分かるから.最悪電話で呼ぶし.」


妹は,そう言ってニヤッと笑っていた.

「そう,じゃあ,いってらっしゃい.気を付けてね.」


「うん,じゃあ,後でお兄ちゃん.あと楓さん」

妹は,そう言ってご機嫌に手を振って去ろうとしていた.

あと楓さん……うん?何で,秋道さんが?


「「うん?」」

秋道さんと声が重なった.まあ,同じところに引っかかったのだろう.


「何?仲良し?……ああ,お兄ちゃん.私,楓さんと話したいからお家で待っておいて貰って」


「いや,無理ですけど.」

何を言ってるんだこの妹は,頭おかしいのか?


「えっ?」

秋道さんはなんかフリーズしていた.この人,コミュ障なのか実は?内弁慶?良くわからない.絶対に面倒だし嫌だ.


妹は,ため息をつき,それから両手を合わせてジッとこっちを見た.

「お願い,お兄ちゃん,良いでしょ.お願い」

それから,両手を握り拳にして,もう一度ニコッと笑った.


「………秋道さん,お願いします.妹の頼みなので」

実力行使(物理)になる前に,妹に従うことにした.

とりあえず,深々と秋道さんに頭を下げた.何をしてるんだろうか僕.


「じゃあ,後でね,お兄ちゃん.」

妹は,それを見て満足したのか,小走りで誠二を探しに行った.


妹がいなくなってしばらくして,秋道さんが口を開いた.

「……ちゃんとシスコンなんだ,春樹君」

彼女はそう言ってこっちを見た.話を変えることで,妹が来る前の空気を飛ばすことにしたらしい.僕もそれに乗って話をすることにした.


「はぁ,違いますよ.」

シスコンって程ではない.仲は良いけど.


「じゃあ,何?私がうちに連れててって言っても断るでしょ.」

秋道さんは,そう言ってこっちを見て笑っていた.


確かに,絶対に断る,あれ?シスコンなのか?いや,

「言いますか?まず」

そもそも,そんな状況にならない.秋道さんが罠を張るにしても流石に面倒だし,身を削りすぎでしょ.


「多分,まだ言わない」


「ずっと言わないで大丈夫です.」

まあ,あと2週間ぐらいで終わる人間関係だと予想しているし.


「何それ酷い,春樹君.」


嘘告白してきた人のセリフじゃない気もするが,いやこれは引きずらないって決めたから違うな.僕の発言が酷いな.それで

「……秋道さんってコミュ障ですか?」


「違うから,君とは.いや,君は普通に喋れてる,社交性がマイナスなだけだ.」


この人,しれっと事実で他人を傷つけるよな.


「……じゃあ,さっきのは」


「シンプルな人見知りですから,いきなりでびっくりしたんです.」


そうか,いきなり,いや僕と秋道さんがちゃんと話したのは噓告白で1回目で,そのあとの目的不明のダル絡みからだ.つまりほとんど知らない人で,彼女が人見知りした様子がない.僕を完全に何言っても大丈夫と思っているか?いや,でも暴言が飛んでくるかも知れない相手にそんな事思うか?じゃあ,完全に下の人類と見てるのか.

「……僕見下されてます?」


「……どういう思考回路したの?春樹君.」

秋道さんは,首を傾げていた.


「いや,良いですけど.行きましょうか.嫌ですけど.」

まあ,考えても無駄だし,どうせ2週間ぐらいしたら,彼女と僕の関係は変わっている.彼女は何か目的を諦めて話しかけてくることがなくなり,ボッチになるだろう,そんな事を思いながら仕方なく家に向かって歩いた.

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