第6話 待ってる人
結局,1時間ぐらい委員長の説得には時間がかかった.
彼女の正義感には尊敬と呆れが混ざる.そもそも僕が問題ないどうでも良いと言っているのに,あの後悔嘘告白をしっかりと謝らせるべきだと,強く主張しないで欲しい.
欠伸をしながら携帯を開いた.
『教室で待ってる』
大量の送信取り消しの後にそう一言メッセージが来ていた.
マジかよと思いつつ教室に行くと秋道さんは無言で勉強をしていた.華があるなと思いつつ,仕方ないので声をかけた.
「暇,なんですか?」
秋道さんがここまでして意味が分からない.嘘告白の延長線上の行動でも,少し常軌を逸していると思う.
「違うからね.春樹君と一緒にしないで,帰りましょ.」
秋道さんは部活動に入っていないらしいが放課後は大体いつものグループでいると思う.秋道さんの雰囲気的にクラスでの今回は夏野さんの指示じゃないとおもう.だとしたら何が目的だ.聞くか.
「何が目的ですか?」
「だから,友達になりたいだけだって言ってるじゃん.春樹君」
どうやらこれは平行線らしい.でももう少し頑張ってみよう.
「信じられないって言ってますよね.」
「信じる心って大事だよ.春樹君」
秋道さんは,そう言って首を傾げて笑っていた,無駄に美しいその姿は何か少しムカついた.
「信じれないのは,騙しに来る人類がいるからですけどね.」
まあ,噓告白とかしてくる人々がいる世界で信じろと言われた方が難しい.
その言葉を聞くと,彼女は少し遠くを見てから,静かに丁寧に
「……ごめんなさい.」
そう言ってこちらに頭を下げてきた.
「……謝らないで下さい,なんか怖いので」
何か怖かったし,何か申し訳ない気持ちになった.僕が悪い点だと一ミリもないが,罪悪感に駆られた.
「怖いって何?酷いよね.さいてー」
秋道さんは,クラスでのいつもの様子と違いフレンドリーで明るく,面白かった.もちろん,彼女の見た目のイメージはクールだが,だからと言って,見た目に性格を合わせる必要もなければ,そこまでして,あのグループにいる意味なんてないと思うが.
「……普段からそうしてたら良いと思いますよ.」
気が付けば,そんな思っていたことを口走っていた.
彼女は,それを聞くと小さく笑ってから下を向き
「友達がいなくなります.私はクールで静かな感じで高校生デビューして,やっと……」
そう言って呟いてから,慌てたのか急に動き出して,机にぶつかっていた.
「あっ」
「忘れてください,春樹君」
「……罠ですか?」
彼女のセリフが事実かどうか分からないが,秋道さんが少し分かった気がする,彼女がこのクラスで一番顔が良い(僕基準)なのに,上位グループの3番手程度で収まっている意味が分かった.
「違う……違わない.」
彼女は,まあ,なんかいろいろプライドがあるのか,アホなのか,策士なのか,どれか分からないが,罠の方を思わず認めていた.
「まあ,なんでも良いですけど,帰るなら帰りましょ.」
「そうしよう,春樹君.そう言えば何だったの用事って.」
彼女は,そう言いながらぶつかった机を直して,姿勢を正した.
「ああ,そう言えば秋道さんの話してましたよ.」
「えっ,何?悪口.」
彼女は,そう言って笑っていた.
「ああ,それはもう直接言うので」
わざわざ裏で言わないよ,もう.
「……それもひどく無い.じゃあ何なの?」
「君の,君たちの噓告白の証拠を見つけてちゃんと謝らせた方が良いっていう人がいて」
めんどくさいので全部言った.
「……それ私に言って良いの?」
「良いも何も,僕は別に謝罪とか要らないので,言いたいこと言いましたし,なんか今,スター状態なので」
まあ,謝罪とか要らない,別に良い.それに,まあ人間だから仕方ない.僕が他人を断罪できるほどの人格者じゃない.
彼女は,それを聞いてしばらく黙り込んでから,手を叩いた.
「……春樹君,良いこと思いつきました.」
「良いです,大丈夫です.」
「私が信頼する為には,私の弱点を教えれば良いんだよね.」
話を聞かずに押し切ることを彼女は覚えたらしい.
「聞いてないですし,信頼しないですよ.」
彼女は無理やり話し始めた.
「私,中学校時代めちゃくちゃ暗くて,高校時代頑張って高校生デビューしたら,夏野ちゃんに友達になって貰えたんです.」
ああ,本当に高校デビューか,まあなんか予想通りというか,ふーんって感じだった.
「ああ,それで陽キャになれたから,あのグループにいれるから,嘘告白の支持を受けたと」
「それは……違うの.夏野ちゃんは,むしろ優しさで」
あのギャルが優しい?僕には理解できなかった.
「何を言ってるんですか?」
「いや,言い訳よね.ごめんなさい,帰りましょ,春樹君,そして一緒にマリカーしましょ.」
彼女の一回目は嘘告白だったらしい.やはり,でも,じゃあ何が目的だったんだ?
「しません.あと,罪悪感を感じて話かけるなら,大丈夫ですよ.」
「違うよ.それもあるけど,それだけじゃないから.まあ,夏野ちゃんが怒った理由は,私のせいだからね.」
彼女は,そう言って夏野さんを庇っていた.良く分からないので
「……はぁ,帰りましょ.」
とりあえず帰ることにした.
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