第2話 約束と言われたら守らないといけない気がする
「面白いね,春樹君.詐欺じゃないよ.単刀直入に言うね.」
秋道さんは,朝から僕に話しかけて来ると僕の席の前に座った.朝練で生徒は教室におらず,二人きりだった.
「いや,大丈夫です.」
本当に,要らなかった.
「昨日のリベンジに来ました.」
リベンジ?嘘告白の?何を言っているのこの人?
「……何のために,嘘告白のリベンジを」
昨日と状況は異なる,朝だから周りには誰もいないし,隠しカメラか.何処かに隠しカメラをしかけてるのか?とりあえず教室を見回してそれっぽい物がないか探した.
「違うよ,噓じゃないから.そもそもだよ,春樹 優也君,まず君は勘違いをしています.それと,隠しカメラとかないからね.」
秋道さんは,少し顔を膨らませながら,こちらを指さした.
「……信頼性はゼロですよ.」
「信じてよ.ふう,言いますよ.」
「……」
ていうか,秋道さんってこんなタイプだったんだ.いや,もっと静かなイメージがあった.少なくとも,いつもの一軍(仮)グループにいるときは,もっと静かでクールなイメージがある.まあ,喋った事がないから知らなかっただけか.
秋道さんは,深呼吸をしてから,無表情になると
「私ちゃんと君の事好きだよ.(棒)」
そう棒読みで言った,ああなるほど,うん,なるほど,何がしたいんだこの人は?本当に意味が分からない.
「棒読みじゃん」
「おかしいな,感情を込めたはずなのに.」
秋道さんは,笑顔でそう言って首をワザとらしく傾げていた.
「……で,本当に何の用事ですか?なんか言われましたか?」
誰かに,何かを指示されたのだろうか?嘘告白?意味不明だ.
「なんかって何?」
秋道さんは,きょとんとしていた.あれ?違うの?それとも実は演技派?
……いや,待ってあっちにペース握られてる気がする,危ない.
「何としてでも,春樹に恥をかかせて来いって,夏野さんあたりに言われたんですよね.」
「言われてませんよ.そんなことは」
「そうですか,それなら何で?」
意味不明だ?ああ,めんどくさいな.ああ,はぁあ,訳が分からない.
「だから,リベンジです.」
リベンジだったら,少しクオリティが低い気がする.
「リベンジだとしたら,成長がないんですけど.」
「確かにそうね.分かったよ.いきなり告白は春樹君にはハードルが高かったのね,まあ,陰キャ,コミュ障,性格終わり人間ですもんね.」
「喧嘩売ってますね.あとその発言で嘘告白確定しましたけど.」
「気のせいです.喧嘩は,500円ぐらいでいかがでしょうか?春樹君」
「高い.」
「冗談はおいておいて,じゃあ,まずは友達になりましょう.」
何がどう繋がって,じゃあだよ.
「嫌ですけど.」
秋道さんは,数秒迷って,鋭い目つきでこちらを指さし
「じゃあ,友達になれ」
そう命令口調になった.
「帰れガキ大将.」
秋道さんは,次は,少し申し訳なさそうに演技をして
「ええ,じゃあ,友達から始めましょ.」
そう呟いた.
「勝手にこっちがフラれたみたいな返答をするな.」
秋道さんは,少しあきれながら
「じゃあ,友達契約しましょ.一日,1ジンバブエドルでどうですか?」
1ジンバブエドルって紙として使った方が価値あるレベルだろ.
「実質,0円じゃないですか.」
「……やっぱり面白いね,楽しいね,春樹君」
秋道さんは,笑顔でご機嫌に笑っていた.顔良いな,秋道さん,一瞬目を奪われるのが凄い,ムカつくな.それと,結構,演技派だな.いや,じゃあ全部,演技か?全く分からないけど,面倒なのは確かだ.
「僕は,楽しくないんですけど.そもそも友達ってなっていくものじゃないですか?」
「春樹君,ボッチがなんで友達語ってるの?」
唐突に右ストレートが飛んできた.ふっ,何も言い返せなかった.いや,確かに,そもそも僕は友達を語る権利は実際ないしな.
「……」
「まあ,でも確かに一理あるわね.そしたら,こうしましょ,春樹君.」
「……何ですか?」
「今日,放課後一緒に帰りましょう.帰宅部でしょ.」
秋道さんは,そう言って机に両手を叩きつけた.
なるほど,嘘告白から,そっち方面に切り替えると,なるほど,それを違和感なくするために,ここまで演技をしたのか.だとしたら,無駄な努力だし,もっと頑張ることいっぱいあると思うまあ.
「……嫌ですけど.」
「約束ね.待ち合わせは教室ね」
「無理ですけど」
「約束ね.信じてるからね.約束よ.」
秋道さんは,そう言って去っていった.
約束か.約束ね,はぁ.約束は守らないとだからな.
それから午前の授業,昼休み,午後の授業と時間が流れていった.
その間,秋道さんが一度も話しかけて来ることは無かった.それどころか,誰も話しかけてこなかった.秋道さんは,男女混合の一軍グループ(仮)中で静かに,クールに小さく頷いていた.やはり,キャラが少し違う気がしたが,まあ僕が侮られてるだけなのかも知れない.
約束なんて忘れてそうだし,もしかすると,そういうタイプなのかもしれない.
約束をしてたけど,来ませんでしたっていうのを嘲笑うためなのかもしれない.そう言う恥のかかせかたをしようとしているのかもしれない
でもな,結局放課後,僕は教室に残っていた,約束は守らないといけないから
「……残ってしまった.はぁ.」
1人,小さくため息をついていた.授業が終わりしばらく時間が経過した.教室に僕以外いないと言うことは,つまり,恥ずかしいな,本当に,結局落とし穴に落ちてるじゃないか.帰るか.
教室を出ようとしたときに,教室の中に髪の毛を少し乱しながら,息を切らして肩で息をしている美少女がやって来た.彼女は,少し息をあげながら,こっちを見て
「はぁはぁ,ごめんね.セーフ?」
そう言って笑顔でこっちを見た.
夕日によって照らされるそんな彼女は,美しい以外の言葉で形容するのは失礼な気がした.
「……」
ただ,この状況は理解が出来なかった?彼女の目的が全く分からなかった.
「待っててくれたんだね,ありがとう,遅くなって,ごめんね.帰りましょう,春樹君」
いろいろ意味が分からないこともあったし,正直面倒だし,まだ疑わしいし,いろいろあるが,一つひとまず聞きたいことがあった.
「……何で息を切らしてるですか?」
「……秘密.」
秋道さんは,指を口にあててそう笑っていた.
「……」
まあ,とりあえず帰ることにした.
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