金縛り

これまでの人生で一度だけ、金縛りにあったことがある。

それは中学生のときで、朝方のことだったと思う。

夢の中、タンスに縋って座っていると、弟が「お姉ちゃん、後ろ!」と叫んだのだ。その直後、暗転して真っ暗な世界の中、ストロボを焚くように瞬間的に明るくなるを繰り返し、明るくなるたび、髪の長いあきらかにやばい女が近づいてくるのだ。

ゆらりゆらりと尋常ではない動きをしながら。

これは夢だとわかっているから目覚めたいと思うのに、それができない。

せめて見ないようにしたいのに、体がうまく動かなくてできない。

そのとき、母が呼んでいる声が聞こえてきた。

朝だから、起きなさいと言っているのだ。返事をしようと思うのに、当然声も出ない。

女はすぐ目の前に迫ってきているし、母の声に苛立ちが滲んでいるのもわかる。

でも、どうしようもなかった。

「いい加減起きなさい!」

部屋までやってきた母に起こされて、ようやく金縛りは解けた。

そのあと、怖くて泣いた。

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