第2話
三四郎と志成は、リギュンたちに案内されるがままに、外に止めてあった荷馬車に乗り込んだ。かなり大きな荷馬車だった。全体が屋根と壁に覆われていて、荷台の外見は小さな家のようであった。中には、食料、水、服などの日用品と武器がたくさん積まれており、そこに、8人全員が乗り込んでもまだ余裕があった。前方には馬が10頭も繋がれており、鞭によってではなく、御者席に座ったドンスの号令によって走り始めた。ナガシは、海艶を慎重に布団に寝かせ、そのすぐ隣に座った。ドンスとナガシと海艶以外の5人は、荷台の中央に集まって、円を描くように座った。
「『石の井』までここから何の障害もなく直進できれば、約200日で着く。でも、分かってると思うけど、そんなのは絶対に不可能だ。途中で何度も遠回りを強いられるだろうし、山谷を越える。それに俺が最も懸念しているのは、海艶を拉致ったことによって、例の組織から追手が来ることだ。まあ、そんなことはないと信じたいが。」
リギュンは、床に「石の井」までの地図を広げながらそう言った。
「てか、こんなことを聞くのもあれなんだが、追手が来る可能性を考えていたなら、なんでまっすぐに『石の井』を目指さずに、わざわざ足高村に寄って海艶を救い出したんだ?」
三四郎がそう聞くと、リギュンは小さくため息をついて、日鷹の方を向いた。
「こいつがどうしてもって、ごねて言うことを聞かなかったからだ」
日鷹は、そっぽを向いて知らん顔をした。
しばらくすると、御者席に座っているドンスが声をかけてきた。
「おいリギュン、この先分かれ道だ、どっちに進む?」
円を描いて座っていた5人は、一斉に地図を覗き込んだ。右に進めば、「和矢」という土地に着く、そして左を選べば、特に地名の記載がない、だだっ広い平原に着くことが分かった。
「『和矢』ってのは、どんな土地なんだ」
日鷹は首を傾げた。
「地図を見た限りは小さな町って感じだな」
志成がそう言うと、ホンスが細い手を挙げた。
「ぼ、ぼく、知ってるかも―。『和矢』ってたしか、『さ教』の教皇が治めてる大きめの村だったと思う。い、今は知らないけど、ほら既に絶対的な神が存在する村に、もし他と同じように女神が送り込まれていたら、なんだか大荒れする予感がしないかな―」
「さ教?」
リギュンとホンス以外はよく分かっていない様子であった。
「さ教ってのは、200~100年くらい前の間に、一部の地域で大流行した巨大宗教だよ。まあ、俺と三兄弟が住んでいた南の王国でも、ちょうどそのくらいの時期は、『さ教』一色だったそうだ。まあ、今は全くそんな面影もないがな。文献もほとんど残ってないし」
三四郎、志成、日鷹には全く聞きなじみのない名前だった。というかそもそも、この世に女神以外を信仰する人々がいたことに驚きだった。なぜなら、足高村では、女神は太古の昔から、全世界に共通で存在していると教わってきたからである。そして、女神が存在する限り、それを信仰することは、当然のことだと思ってきた。
「でも、そもそも和矢に行く道と逆の道を選んだとしたら、正体不明のだだっ広い平原を長時間進むことになるぞ。それは、ちょいとリスキーじゃないか、もし追手なんてもんが存在するとしたら」
日鷹は地図上の左側の道に指を沿わせ、地名の記載がない平原を叩いた。
「それもそうだな、それにもし、今でも和矢で、さ教が生き残っているなら女神信仰を止める手伝いをしてくれるかもしれないしな」
リギュンはそう言うと、ドンスに向かって、「右の道に進む!」と指示した。すると、ドンスはなにやら大声で馬に号令をかけた。
「なあ、さっきから気になってたんだが、ドンスは馬になんて言ってるんだ? 言葉で馬を操ってるぽいが、そもそもそんなことできるのか?」
三四郎がそう聞くと、ずっと黙々と海艶の看病をしていたナガシが急に口を開いた。
「あいつは、馬の言葉が話せる。俺は全く信じられないが、本人によれば、幼少期から馬小屋に毎日長時間通い続けたら、馬の言葉を理解できるようになったそうだ」
ナガシは、そう言い切ると、またすぐに海艶の看病に戻ってしまった。
「ああ、ナガシの言った通りだ。ドンスは、馬の言葉を話せる。話せるだけじゃなくて、言葉で馬を操ることもできる。まあ、たまに言うことを聞かないがな。ちなみに、それだけじゃないんだぞ、この三兄弟はな―」
突然、外から聞こえてきた大きな破裂音にリギュンの言葉はさえぎられた。銃の発砲音のようであった。そして、日鷹が、御者席の方を指さして悲鳴を上げた。
「ド、ドンスが倒れたよ!」
ドンスは御者席でぐったりしていた。三四郎は恐怖とショックで一気に血の気が引いた。志成は、パニックになって荷台を走り回っていた。日鷹は刀を抜いて、あたりをうかがっていた。
「お前ら落ち着け! 静かにするんだ」
リギュンが叫ぶと、志成は動きを止めた。
「ホンス、どこに何人いるか教えろ」
ホンスはリギュンにそう言われると、目を瞑り、微動だにしなくなった。
「北東の木の上に3人、北西の茂みに5人」
ホンスは目を瞑った状態で、短くそうつぶやいた。三四郎と志成はホンスがたった今何をしたのか全く理解ができなかった。しかし、リギュンはホンスの言葉を聞くと、「日鷹、銃を撃て」と一言言って、黙って荷台の外に出て行ってしまった。日鷹は言われた通りに荷台の中から外に向かって、積んであった西洋銃を一発撃った。その数秒後、リギュンが、血で汚れた刀身を手ぬぐいで拭きながら、荷台の中へ戻ってきた。
「変な仮面を被った奴らだった」
リギュンはそう言うと、黒い鉄製の、ハイエナの顔の形をした仮面を懐から取り出した。
「あと、奴らが持っていた銃だ」
リギュンはそう言って、黒い、異様に細長い西洋銃8本を志成に押し付けた。
「ええ、もう倒したのかよ⁉ お前今いったい何をしたんだ?」
志成は、押し付けられた銃を重そうに抱きかかえながら言った。
「神速だ、リギュンは。それも生まれつきな」
御者席でぐったりしていたドンスが、いきなりむくっと起き上がって、荷台の中に入ってきた。
「お、お前、無事だったのか、て、お前なんで急に10円はげ出来てんだ⁉」
志成がそう言うと、ドンスは、左の後頭部のあたりにできた10円はげをさすった。
「いや、なんでって、撃たれたからに決まってるじゃねえか。まあ、俺は体が丈夫だから銃弾くらいじゃ風穴は空かねえがな」
三四郎は、まるで異世界にいるような気分になった。まず、ホンスが荷台の中から目を瞑った状態で襲撃者の位置を詳細に割り出したこと、リギュンが数秒で襲撃者8人を倒したこと、そしてドンスが頭を銃で撃たれたのにも関わらず全くの無傷でいること。それら全てのことが、常軌を逸していて、全く考えられないことだった。
「いや、丈夫って言ったって限度があるだろ―」
志成がそう言うと、リギュンが「まあ落ち着け」と志成を制した。
「説明するタイミングが難しくて、まだ話してなかったんだが、今見せた通り、俺たちには特別な力がある。」
リギュンは、そう言うと3兄弟を順番に指さした。
「ナガシは超怪力、ドンスは超頑丈、銃弾も効かないくらいにな、ヨンスは超人的な聴力を持ってる。全員後天的だそうだ。そして、俺はドンスが言ったように超高速で動ける。俺は生まれつきだ」
次にリギュンは日鷹を指さした。
「日鷹も炎を出せるらしい。まあ、ちょっと体にまとわせるか、小さい爆発を起こすくらいが限界らしいが。いつから、そんな体質だったかは全く覚えてないそうだ」
リギュンが淡々と説明するのを聞きながら、三四郎はふと足高山での出来事を思い出した。三四郎が、海艶を刺したリギュンの行方を追って山に入り、走り疲れてもたれかかった大木からはっきりと鼓動を感じたこと。そして、ふと視界が暗くなり、リギュンらの居場所が光って浮かび上がってきたこと。三四郎は、神とか超能力とか超常的なものを全く信じないタイプの人間だったから、そのことについてはあまり考えないことにしていた。しかし、リギュンらの特別な力の話を聞いて、さらにそれを目の前でたびたび見せられては、もはや、そのような超常的なものの存在を認めざるを得ない。もしかしたら、自分もなにか特別な力の持ち主なのではないかと三四郎は考えた。例えば、自分が探している人間の居場所がすぐに分かるだとか、でも、もしそうだったらあまりうれしくないなと思った。もう少しかっこいい力が欲しかったのである。
「なあ、なんでお前らはそんな力を持ってるんだ? お前らの住んでいた国はみんなそうなのか?」
志成がそう聞くと、ドンスは笑った。
「そんなわけないだろ、笑わせるな! 俺たち3兄弟に関しては、後天的に身についてしまった力だからな。日に焼けて、肌が茶色くなったみたいなもんだ。まあ、リギュンと日鷹は完全にただの超能力者だと思うが」
いつの間にか、空はすっかり暗くなっていた。荷馬車を止めて、リギュンたちは夕食の準備を始めた。
「うちは料理得意なやつがいないからな、基本は荷台に積んできた非常食か、そこら辺の肉やら魚やら野草やらをてきとうに炒めて食べる。安心しろ、火はいくらでも起こせるから」
ドンスはそう言って、日鷹の肩をバシバシたたいた。
「安心しろ、食料が尽きたらこいつの腹をそぎ落とすから」
日鷹は、ドンスの三段腹を思いっきりつねった。荷物をあさっていたリギュンは、非常食の乾パンを全員に投げつけてきた。
「今夜はこれだけ食べろ、新たな追手がいつ来るか分からない状況でのんきに料理なんてしてる暇ない」
そのとき、ずっと海艶の看病をしていたナガシが突然「あ」と言った。ナガシの方を見ると、海艶が起きて、乾パンをむさぼり食べていた。これまで女神として生きてきた海艶だけを見てきた三四郎と志成は、乞食のように乾パンにかぶりつく海艶の姿に衝撃を隠せなかった。
海艶はナガシの分も合わせて、乾パンを4つ、あっという間に平らげた。食べ終わった後、海艶は我に返ったのか、口元をぬぐいながら恥ずかしそうにこちらの様子をうかがっていた。
「さっきはすまなかった、突然お腹刺してしまって、日鷹がどうしてもって言うから―」
リギュンがそう言って謝ると、日鷹はリギュンを蹴飛ばした。
「ううん、誤解だからね、私はどうしても助けたいって言っただけだから」
日鷹は震えていた海艶を抱きしめた。
「これでもう命の心配はない、だけど、腹の傷はしばらく消えないし、たまに痛むかもしれない。すまんが我慢してくれ。君の命を救うためだったんだ」
ナガシが、落ち着いた口調でそう言うと、海艶は日鷹の腕の中で小さくコクンとうなずいた。
「あ、あの、ここはどこですか?」
海艶は相変わらず震えながら、そう聞いた。
「ここは、荷馬車の荷台の中だ。俺たちはこれから、君と日鷹を足高村に派遣してきた組織を叩きつぶしに行くんだ。命だけは、あのホンスが保証するから安心して」
リギュンがそう言うと、ホンスは小さく「え」と言った。
「とりあえず今夜はもう寝よう。海艶には明日詳しく色々説明するよ。見張りは交代でやるぞ」
翌朝、三四郎が起きると、もうすでに他のみんなは起きて、朝食の乾パンを食べていた。リギュンは、「石の井」やら「和矢」やらの話を海艶にしていた。ドンスは、御者席に座って、何やら馬に話しかけて笑っていた。「まさか、人と馬が談笑してる光景を見る日が来るとは―」と三四郎は内心感動した。志成は、落ち着かない様子でナガシに色々と一方的に話しかけていた。海艶が、同じ荷台に座って自分と同じように話していることに、未だに慣れないのであろう。また、あの志成のことだから、おそらく日鷹が兎殿であることにも気づいているはずだ。ヨンスは、荷台の中央でなにか集中している様子で目を瞑っていた。おそらく、近くに追手が来ていないかを確認しているのであろう。
「あ」
ヨンスが、突然声を出した。
「どうしたヨンス、追手か?」
リギュンがそう聞くと、ヨンスは静かに首を横に振った。
「いや、多分違う。悲鳴が聞こえる、たくさん。肉を引き裂く音と、人が走り回る音も聞こえる。なんだこれは。戦争か? いやそれとも少し違うような―」
ヨンスは独り言のように、ぶつくさとつぶやいていた。
「なあドンス、和矢まであとどのくらいだ?」
リギュンがそう聞くと、「あと5㎞くらいだ」とドンスが楽しそうに答えた。
「なあ、ちなみになんだが、前から老婆が一人で歩いてきてるぞ、おいヨンス、気づかなかったのか?」
ドンスがそう言うと、ヨンスは驚いたようにばっと顔を上げた。
「うそだ…、他の音に気を取られて全く気付かなかった―」
ヨンスは、いつも以上にぶるぶると震えていた。三四郎もなんとなく気味の悪さを感じ取っていた。なんというか、ものすごい不幸が迫ってきているような感じがした。荷台の中から、三四郎たちは顔を出して、前から歩いて来ている老婆に注目した。老婆はこちらに気づいて、ひどく驚いた顔をしていた。
「あんたたち、旅の者かい―?」
老婆は口をあんぐりと開けて聞いてきた。
「ええ、まあそんなところです。和矢ってところを目指してるんですが、おばあさん何か知ってます?」
リギュンがそう聞くと、おばあさんはとんでもないという顔をした。
「あんたら和矢を目指しているのかい⁉ 今あそこへ行くなんて、死にに行くようなもんだよ。今あそこは世界で一番危険な場所だよ!」
老婆はありえないという顔をしていた。一同は顔面が蒼白になった。
「な、なんで危険なんですか…?」
リギュンが聞くと、老婆は「いいかい―」と言った。
「あそこは今戦争中だよ。もう200年前くらいからずっとさ。もうこれまでに何人死んだか分からないよ、毎日毎日、見えるもの聞こえるものすべてが地獄さ」
老婆は、頭を抱えてうずくまった。
「今あそこは人食い鬼でいっぱいだよ。私もたった今そこから逃げてきたところさ、家族を置いて…」
老婆はそこまで言うと、急に泣き叫び始めた。
「あ、あああ、私はなんてことを! まだみんなあそこに残って―、それなのに私は―」
老婆はそのままの姿勢で突然静かになった。
「ドンス、荷馬車を進めろ、ばあさんには悪いがな」
リギュンはそう言って、外をのぞくのをやめ、荷台の中に戻ってしまった。
「え、ばあさんは? あのままでいいのかよ。」
志成はリギュンの肩をつかんだ。
「ああ、もうこと切れているからな。申し訳ないが、埋葬している時間はない。先に進もう」
志成は「えっ」と言って、リギュンの肩から手を離した。
荷馬車が和矢に近づくにつれて、ヨンスの様子がおかしくなった。体の震えが増し、ひどくおびえた様子で独り言をつぶやいていた。
「な、なあ、リギュン、や、やっぱりやめよう。この道はだめだ。和矢に近づくにつれて、やばい音がたくさん聞こえるよ。人食い鬼の話もきっと本当だよ」
ヨンスは和矢から聞こえてくる音に我慢できなくなったのか、リギュンに詰め寄った。すると、ナガシがヨンスをリギュンから引き離した。
「ヨンス、気持ちは分かるが、もうここまで来てしまった以上引き返せない。それに、今和矢で起きている戦争ってのは、始まった時期からしても、さ教と女神を送り込んできたやつらの争いで間違いないだろう。もしそうなら、俺たちからしてみれば、味方を得る絶好のチャンスだ」
珍しくナガシが長々と話し、ヨンスをなだめた。ヨンスはそれでも納得がいっていない様子であった。
「ヨンス、音が嫌なら向こうに着くまで耳栓でもしてな。向こうに着いた後、こちらに危険が及ぶようなら、私たちが守るから安心しな」
日鷹は持っている刀を研ぎながら、そう言った。正直、三四郎は今すぐに足高村に帰りたいと思っていた。リギュンや、三兄弟と日鷹が特別に強いのは分かっていたが、人食い鬼の話を聞いてから、三四郎はもはや自分の体が食べられる恐怖しか感じられなくなっていた。初め、老婆が人食い鬼と言ったときは、全く信用していなかったが、この世界には超能力者が存在していることを思い出し、もはやその存在を信じるしかなくなった。気弱なヨンスがリギュンに迫るほど異常におびえていることと、同じ場所で戦争が約200年も続いているという事実が三四郎の不安感をさらに煽った。志成もどうやら同じことを考えているようで、その顔から絶望感がよく伝わってきた。そして、このとき三四郎が最も驚かされたのは海艶の異常な冷静さである。海艶は、老婆が話をしていた時も、5回はあくびをしていたし、今だって、刻々と和矢に近づいているのにも関わらず、一人じゃんけんをして遊んでいる始末だ。そんな海艶を、三四郎は静かににらみ続けた。
和矢の入り口にたどり着くと、ヨンス以外にもその中で起きていることの悲惨さがよくわかった。悲鳴、銃の音、血しぶきの音、死臭など、すべてのことがこれでもかというほど、自分たちの五感に訴えかけてきた。入り口は、大木が立ち並んでいて、大きな森林を形成していた。そのため、中の様子は全くと言っていいほど見えなかった。
「なあ、ここで合ってるんだよな…?」
入り口に辿り着き、みんなが荷台を降りてしばらくしても、ドンスは御者席から降りようとしなかった。
「おいドンス、とっとと降りてこっちで話せよ!」
日鷹はドンスを煽るようにそう言った。
「入り口から入るのか? それとも迂回して入るか?」
ナガシが辺りを見渡しながらそう言った。
「まあ、もはや整備されてなさ過ぎて、入り口が入り口って感じしないけどな」
志成は丸刈りにした頭をポリポリかきながらそう言った。
「まあ、正面から行こうぜ、どうせ、どこから入っても危険だよ」
そう言って、リギュンはどんどん入り口を突き進んでいった。入り口から、8人でしばらく歩き続けたが、死臭が濃くなるだけで、景色はほとんど変わらなかった。相変わらず、真っ暗な深い森が続くだけで、中の様子はほとんど分からなった。一行はじれったくなって、少しずつ早歩きになっていた。1時間ほど経って、たくさん廃墟が立ち並んでいるのが見え始めた。死臭にはもはや慣れ、あまり感じなくなっていた。ただ、相変わらずそこら中から悲鳴と肉を引き裂く音が響き渡っていた。
「なあ、これどうなってるんだ? 音は聞こえるけど、人の姿は見えないぞ」
ドンスがそう言ったその瞬間であった。全身血まみれの狼男のような見た目をした怪物が、リギュンにとびかかってきた。これが、老婆の言っていた人食い鬼であると、三四郎は一目で分かった。リギュンは、背後から肩にかみつかれ、身動きがとれなくなっていた。全員が恐怖で硬直する中、ナガシが飛び出し、人食い鬼のあごにつかみかかり、リギュンから引きはがそうとした。人食い鬼のあごはギュキギュキと鈍い音を立てて、破壊され、リギュンが自由に動けるようになった。そして、その人食い鬼はピクリとも動かなくなった。
「こ、こいつか、あのおばあさんが言ってた人食い鬼って、くそ、肩の出血を止めないと―、く、それにしても痛ぇ―」
そうリギュンが言った次の瞬間だった。海艶が、上空を指さして「あ」と言った。海艶が指をさした方向を向くと、空いっぱいに、さっきの人食い鬼と似たような見た目をした怪物が、飛び上がっていた。数は、おそらく100体はいるであろう。そのすべてがこちらに向かって降りてきていた。瞬きをする間に志成は遠くへ逃げていた。リギュンが「おい、待て」と言ったとき、最初の1体がドンスに襲いかかった。ドンスは、耐久力はあるが、力はそこまで強くない、そのまま2体、3体とどんどんドンスの周りに群がっていった。そして、その間にも次々と人食い鬼は降り立ち、日鷹、ナガシ、リギュン、海艶、ヨンスを襲い始めた。三四郎も背後から、1体に左腕をかまれた。そして、そのまま左腕をかみちぎられてしまった。三四郎は、一瞬の出来事に、状況の理解が追い付いていなかった。しかし、血が噴き出し、激痛の走る左腕を見て、三四郎は悲鳴を上げた。そして、ショックで意識を失ってしまった。その間にも、三四郎の体には、人食い鬼が何体も群がり、三四郎の腕、脚、頭、胴にそれぞれかみついた。
女神信仰 間 気楽 @hazamakiraku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。女神信仰の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます