8.

 青年は立ったまま、ミノルは地面に両膝を突いたまま唖然としている。彼らの見開かれた目に映るのは、ベッドの下から頭を出しているマネキンだった。

 うつ伏せ状態のマネキンは両手を突き出すと、床に手を突いた。そして、ズズズッと床を引きずりながら胴体を露わにしていく。

 そうして足先まで出し終えたところで、両膝を突いて身体を起こしていく。ゆらりゆらりと立ち上がったところで、青年たちに顔を向ける。

「っ!」

 マネキンと目が合ったミノルが怯む。光の宿っていない無生物の眼差しは、彼に形容しがたい不気味さと恐怖を与えるほどだった。

 ミノルが立ち竦んでいると、マネキンが視線を移す。その対象は、彼の両膝に身体を預けているルミだった。

 ルミをじっと見つめている中、青年は険しい表情でマネキンを睨んでいる。すると、マネキンの顔がこちらを向いたと同時に、目つきを鋭くする。

 青年と視線を交えるマネキンが右足を一歩前に出す。その挙動を見た青年は目を離さずに、後ろに一歩下がる。すると、ミノルが奥歯を噛み締めながら呟く。

「くそっ。待ち伏せとはタチが悪りぃ」

 ミノルは険しい表情でクローゼットにあるバールを左腰に差す。それからルミを背負うと、ゆっくり立ち上がる。

「こんなところで死ねるか。逃げるぞ、タケル!」

 ミノルはマネキンに向かって叫ぶと、出入り口に向かって走り出す。それに対し青年は、ほんの少し遅れて走り出した。

 その直後、マネキンが動き始める。そして、カチャン、カチャンと大きな音を立てながら、彼らを追いかけ始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る