7.
山の麓に生えている一本の大きな樹。それは、辺りに生えている樹よりも幹が太く、高く伸びている。
そんな一際目立つ樹の前に、2人の男が立っている。顔を上げている彼らは、枝に結んだロープで首を吊った男の死体を見ている。
「はあ、またか。今月だけで5人目だよな?」
「はい」
気怠げな中年男の問いに、平然とした顔の若い男が答える。
死体は苦しげな表情のままである。大きく開かれた両目と口から出た体液が鼻水と共に顔を濡らし、見る者にどれだけの苦しさだったのかを如実に表している。
凄惨な死体を前に、若い男が眉根を寄せて呟く。
「この樹はやっぱり呪われてるんでしょうか」
「ああ?」
「人に見つかるかもしれない麓で、しかも沢山ある樹の中で、この樹に集中するなんておかしいじゃないですか」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ」
中年男が横目で睨むと、若い男は口を噤んだ。
「そういうのは、事務所帰ってからにしろ」
「すみません…」
厳しい言葉を受け、若い男の顔がしゅんとなる。反省したのを見た中年男は、沈痛な表情を浮かべて死体に視線を戻す。
「また若い奴がねぇ。何があったか知らねぇが、明るい未来が待ってたろうに」
「そうですね」
「…死にてぇくらい困ってる時が来たら、俺に言えよ。酒のついでに相談乗ってやるから」
「はい。その時は是非」
若い男が明るい返事をすると、中年男は安心したように口角を上げた。
「よし。早く降ろしてやるぞ」
中年男が動き始めると、若い男が後に続く。その瞬間、2人には聞こえない何者かのしわがれた声が樹から発せられる。
『次の獲物がいつ来るか、楽しみですねぇ』
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