6.

 僕の足に巻き付いている木が、ゆっくりと這い上がって行く。

「何なんだよ、これ!?」

 その場から動けなくなった僕は、狼狽えながら辺りを見渡す。すると、カウンターに佇む老人と目が合った僕はすかさず尋ねる。

「あの!これは一体!?」

「フフフ。あなたは私の養分となるのですよ」

「…は?」

 意味不明な答えに、僕は唖然とする。

「養分?何を言って…」

「最後にお教えしましょう。実はこの店、私が作り出した幻なのです」

「ま、幻…?」

「ええ」

 老人は混乱を深める僕に笑顔で答える。

「さらに、もう一つ。あなたの身体に今巻き付いているのは、私の一部なんです」

「この木が…、あなた?」

「ええ。あなたは私に取り込まれ、命を養分に私の血肉となるのです」

「…さっきから何言ってんだよ、あんた。だったら、遥は何なんだ!」

 僕は声を荒げると、彼女の方へ目を向ける。その瞬間、僕は驚きで目を見開いた。なぜなら、彼女は無数の蛇のように木に全身を飲み込まれていたからだ。

「遥!」

「あなたの願い、この私が叶えましょう」

 老人がそう告げた途端、僕を巻き付ける木が上半身へと伸びて行く。真下に向けた目で見た途端、恐怖が大きくなっていく。

「…嫌だ」

「はい?」

「い、嫌だ。こんなの…、死にたくない」

「おや?おかしいですね。死を望んでいたというのに」

 老人の嘲るような口調に、僕は何も言い返せなくなる。すると、巻き付いている木が首元にまで迫って来た。

「誰か!誰か、助けてくれ!!」

 僕は涙目で必死に助けを求める。しかし、それに応える者などいない。そして、僕は恐怖に怯えながら、木に全身を飲み込まれた…。

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