5.

 言葉を詰まらせている僕に向かって、彼女が問いを投げる。

「ねえ、どうして?どうして私が、あなたの心中で死ななくちゃいけなかったの?」

「それは…」

「ガンで余命宣告を受けて、一人で死ぬのが怖かったから?」

「…っ」

 彼女の追求は恐ろしく、気圧された僕は何も言えなくなる。

 感動の再会から修羅場と化した空気。それに巻き込まれた老人は、平静な様子で僕たちの会話を聞いている。 

 場の空気と彼女の静かな怒りが、僕の精神を擦り減らす。そして、それらに耐えかねた僕は俯いたまま口を開く。

「…そうさ、君の言う通りだよ」

 その言葉を皮切りに、僕の口は動き始める。

「僕は君を愛してるんだ。今まで出会ってきた女性の中で、一番好きなんだ。夫婦になりたい君を置いて、死ぬなんて嫌だったんだよ」

「…」

「望んでた幸せが目の前だったのに、僕を病気にするなんて神様は意地悪だ。…君だって嫌だろ?僕が先に死んだら。だから一緒に逝こうと考えたのさ」

 僕はそう答えると、口角と共に顔を上げた。それに対し彼女は、表情を変えることなく僕に問う。

「理由は分かった。…私のこと、そんなに好きなの?」

「もちろんだ。君だってそうだろ?」

「ええ、私も好きよ」

「だったら、分かって…」

「だけど、あまりに身勝手すぎる」

「…」

「でも、そんなに自分のことを想ってくれてるのは嬉しい」

「遥…」

「なら、一緒にいきましょう」

 彼女はそう言うと、僕に笑みを向ける。つぎの瞬間、足元が圧迫される感覚に襲われる。

「何だ…、え」

 僕は目を疑った。なぜなら、床から不自然に生えた木が僕の両足に巻き付いているからだ。

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