4.

 奥のテーブル席に佇み、無表情でこちらをじっと見つめるのは、半年前に事故死した僕の恋人。服装は事故当時のままで、服はおろか怪我一つしておらず、生前の姿のままである。

 目の前の光景は現実なのか?そんな疑問が、驚きで呆然とする頭の中で反響し続ける。

--いや、これは幻だ。事故を思い出して精神が参っている僕が無意識に作り出しただけなんだ。

 僕はその場に立ちつくしたまま、目の前の光景を否定する。

 半年ぶりに見る彼女の姿。予想してなかった形での再会に、感動が全くないわけではない。それよりも僕の感情を大きく占めているのは戸惑いの方で、複雑な気持ちなのだ。

「…」

「お客様」

 呆然とする僕を呼ぶ老人の声。彼に視線を戻すと、僕に向かって優しい笑みを浮かべる。

「にわかには信じられないと思いますが、あなたが目にしているのは現実です」

「現実…?」

「ええ。彼女はずっと、

「ずっと待っていた…?」

 僕が鸚鵡おうむ返ししていると、老人が彼女に目をる。

「人を待たせるのは良くないですよ、さあ」

 老人に促され、僕は後ろ斜め右に振り返る。 

 その先にいる彼女は相変わらず、無表情で僕を見つめるだけである。状況を無理矢理飲み込んだ僕は、彼女の名を口にする。

はるか…」

「…」

 遥からの返事はない。それでも僕は、彼女に言葉をかけ続ける。

「今更過ぎるけど、ごめん…。君を死なせてしまって…、僕だけ生き残ってしまって…」

「…ねえ、翔太しょうた

「っ!」

 僕を呼ぶ遥の声は驚きと感動を与え、言葉を詰まらせる。

「遥…」

「聞きたいことがあるんだけど」

「何だい?」

「《どうして私があなたの無理心中に付き合わされなきゃいけなかったの》?」

「…え?」

 僕は驚きのあまり、固まってしまう。彼女は、そんな僕に対し険しい表情を向けている。

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