5.

 男は頭痛と寒気に苦しみながらも、目的の自販機がある裏路地に辿り着いた。

「早く…早く飲まないと…」

 逸る気持ちを押さえながら、自販機へ近づいていく。

「よし、売り切れじゃない」

 男は4つのダミーラベルを見ながら、口角を吊り上げる。ズボンのポケットから財布を取り出し、100円玉を1枚摘んで、コイン投入口に入れる。すると、ダミーラベルの下にある押しボタンが赤く光り、彼は高揚感を得る。

「これで楽になれる…」

 期待を込めて、4つある中の左端のボタンを押す。


 ピッ…。


 電子音が発せられるも、中から何も出てこない。

「…あ?」

 笑みを浮かべる男の顔が強張る。その瞬間、疑問と共に苛立ちが湧き上がり、笑顔が険しい表情へと変わる。

「なんでこんな時に」

 苛立ちを露わにしながら、ボタンをもう一度押す。


 ピッ…。


「…なんで出てこねぇんだよ、くそっ!」

 声を荒げると、躍起になってボタンを連打し始める。


 ピッ…。

 ピッ…。

 ピッ…。

 ピッ…。

 ピッ…。


「ふざけんな!!」

 苛立ちが限界に達し、怒声をぶつけると共に右手で自販機を殴った。ジーンとした痛みが生じるも、怒りを抑えきれず、今度は右足で蹴りを放とうとする。怒りで歯をむき出しにしながら蹴ろうとする、その時だった。

「…うっ!?」

 男の顔が驚きに染まる。左足首を謎の圧迫感が襲い、足元に目を向ける。その瞬間、彼は背筋が凍る感覚に襲われる。

「ひっ!」

 男は思わず悲鳴を上げる。なぜなら、自販機の取り出し口から細長くて白い腕が出てきて、彼の左足首を掴んでいたからだ。

「何なんだよ、くそっ!」

 恐怖に抗いながら、左足を力いっぱい後ろに引こうとする。しかし、左足首を掴む腕の力は強く、左足は微動だにしない。

「離せ!離せって言って…」

 腕に向かって怒声をぶつける、その時だった。取り出し口からもう一本の腕が出てきて、男の右足首を掴んだ。

「あ」

 男が怯んだ瞬間、両足を一気に引かれる。それにより男は後ろに体勢を崩し、背中と後頭部を激しく打ち付けた。

 衝撃と痛みで意識が途切れそうになるも、男はかろうじて耐える。苦痛に顔を歪めながら上半身を起こうとするも、2本の腕はそれを許さなかった。

「止めろ…」

 男は顔を恐怖に染めながら、制止を呼び掛ける。しかし、2本の腕は応じることなく、自販機の取り出し口へと引っ張り始める。

「ひっ!」

--何でこんなことになった!?嫌だ、死にたくない!!

「誰かぁ!!助け…、あああああ!!」


 メキッ、バキッボキッベキン…。


 男の悲鳴は、骨が連続して折れる音に掻き消された。彼は形を無理矢理変えられながら、自販機の中に引き込まれてしまったのだった…。


————————

※修正箇所(2024.9.1)

「俺」→「男」

 一人称視点から、三人称視点に変更しました。

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