4.
『最近太ってきてね?』
『先輩、だいぶ太ってきましたね。何か悩みでもあるんですか?』
『ずいぶん会わないうちに太ったな、お前』
職場の同僚に後輩、大学時代の友人からの一言。彼らの言葉に共通している「太った」という言葉に、男は嫌気が差していた。
男はそう言われる度に、苦笑いで受け流し続けた。そして、苛立ちを感じずにはいられなかった。「そんなこと分かってんだよ。いちいち言わなくたっていいだろ。その何気ない一言で傷ついてるかもしれないって想像できねぇのかよ」っと思うからだ。
彼らに怒りをぶつけてもしょうがない。メタボ体型になってしまったのは、謎のジュースを毎日飲み続けている自分のせいなのだから。
そう認識している男に、追い打ちをかけるような出来事があった。直近の定期健診で血糖値が異常値に達し、糖尿病まっしぐらだと分かったことだ。
ここまで悪化していると知った男は怖くなり、ジュースを止める決断をした。そんな彼は不安でしょうがなかった。好きなものを止めなくてはいけない苦痛にどれだけ耐えられるのか。それ以上に、翌日にどんな不幸があるのか分からないのが恐ろしいのだ。
男は大きな不安を抱いているだろうが、止める以外の選択肢はない。どんなに苦しく、怖くてもやるしかないのだ。
決断した日の夜。ベッドで横になっている男は、異変に苛まれていた。
「うう…」
--頭痛がハンパねぇ。それに、寒気までしやがる…。
身体を蝕む苦痛らに顔を顰める。
「…あれとは関係ないよな?」
疑問と共に頭に浮かんできたのは、謎のジュースだった。
ジュースを一日止めたくらいで、こんな苦しさはあり得ない。一日我慢したところで、少しの空腹感と飲みたい欲求にしばらく付きまとわれるくらいのはず。男は自身の経験から強く否定する。
「そんなはずはねぇ。単なる風邪だよ、きっと…」
『どうして我慢する必要があるんですか?』
男の耳元で囁く女の声。驚いた彼は起き上がると、窓から差す街灯を頼りに暗い室内を見渡していく。
「誰もいない…。聞き間違いか?」
『そんなに苦しんで、可哀想に』
「うっ!?」
男は両手で頭を抱え、奥歯を噛み締める。幻聴だと思っていた女の声が頭の中で反響し、不快感を抱かずにはいられないのだ。
『苦しい思いをするくらいなら、止めたほうがいい』
「ぐっ…」
『罪悪感を抱く必要はありません。さあ、来てください』
「…行かなくちゃ」
男は正気を失ったように呟く。足をふらつかせながら、側にあるローテーブルに向かう。そして、そこにある財布を手に取ると、そのまま玄関へ向かって行った。
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※修正箇所(2024.9.1)
「俺」→「男」
一人称視点から、三人称視点に変更しました。
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