3.
この数日間、男は色んな不幸を見てきた。頭に鳥のフンが落ちてきたり、スマホを充電し忘れたり、仕事で些細なミスをして上司に怒鳴られたりといったものだ。
それらが未来の自分を苦しめる。そうなるはずだったが、男は全て免れてきたのだ。前日にジュースを飲むことで、どんな不幸が訪れるのかが分かるからだ。
事前に分かるとなれば、回避するのは簡単だ。その日だけフンが落ちてくる場所を避けたり、寝る前にスマホがちゃんと充電できているかを確かめる。ミスをして怒られた業務に細心の注意を払うといったことをすればいいだけなのだから。
このジュースを飲めば、翌日の不幸が回避できる。しかし、男は最近になって、それだけじゃないことを知った。
男の趣味は競馬である。休日のほとんどを馬券に注ぎ込むほど夢中になっているも、ここ最近は全く勝てていなかった。
勝てないことに苛立ちと悔しさを募らせながらジュースを飲んだ時、また負ける未来を見てしまった。しかし、男はチャンスと捉えた。なぜなら、映像の中の自分は馬券を握りしめながら、結果を映した掲示板をじっと見つめていたからだ。
前日に結果が分かったことで、男は久しぶりの大勝ちを手にした。そして、これを機に、このジュースは不幸を回避するだけでなく、幸せをもたらしてくれる万能な代物だと気づいたのだ。
そんな万能なジュースだが、欠点が2つある。一つ目は、一日一本しか効果がないこと。一本目の一口目の時にしか未来が見えず、それ以降は何の変化がないのだ。
二つ目は、太りやすいということ。1日に3本の炭酸飲料を飲んでも、男の体型は変わらなかった。しかし、このジュースは一日に一本だけで、彼の身体をみるみる丸くしていっているのだ。
そうは言ったものの、男は特に気にしていなかった。「幸せが増えるなら、脂肪も増えていい」、そんな考えだからである。
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※修正箇所(2024.9.1)
「俺」→「男」
一人称視点から、三人称視点に変更しました。
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