第32話 頭脳警察『Live Document 1972 - 1975』その1

 2003年4月、ファンにとっては驚愕のものが発売されました。殆ど残っていないと思われていた70年代の頭脳警察のライブ音源、それが7CD+1DVDのBOXセットで発売されたのです。第29話にて紹介した非売品CD、これに70年代頭脳警察のライブが収録されていて、収録曲的に不完全だったにも関わらず、ファンは喜んだものですが、今回は殆ど完全収録の形で収録されています。それどころか、今まで存在さえ知らなかった地方でのライブ音源も含まれていましたので、大騒ぎとなったわけです。勿論このボリュームですので、LPレコードサイズのBOXに収められていまして、値段も16,000円(税抜)と少々お高くはなっていますが、ファンとしては入手出来なくなる前に購入しなければと、早々に購入しましたね。インディーズからの発売でしたので、当然ながら今現在は入手困難となっています。

 流石にこのボリュームですので、何回かに分けて紹介させていただきます。という事で、久しく聴いていなかったライブ音源を聴き直そうと思いますね。


 DISC1は、第29話でも紹介している1972年8月15日の日比谷野外音楽堂におけるイベント『WAR IS OVER…?』の全長版。非売品CDでは4曲のみだったのが、11曲収録されています。当日の演奏はこれで全てかはわからないのですが、イベント参加という事を考えると、殆ど収録されているのではと思います。ベースに増尾光治さんが加わり、音に厚みが増した感じです。そしてエレクトリックフォームという事で、まるでパンクバンドのような勢いさえあったりもします。会場で隠し撮りしたような感じですが、それでも演奏も歌詞もしっかり聴こえるぐらいの良好なオーディエンス録音です。MCは殆どカットされていますが、72年10月に発売された『3』からの曲も演奏していて、「ちゃんと発売出来るか不安だ」という様な事を言っているのは収録されています。

 そしてファーストに収録されている『お前が望むなら』、終戦記念日という事からか、『戦争しか知らない子供たち』も演奏されています。これらの曲はもう演奏されないと思い込んでいただけに、なかなか新鮮に感じます。特に『戦争しか知らない子供たち』は、『戦争を知らない子供たち』の替え歌だけに、それ程演奏してないのでは。それを思うと貴重な音源ですね。そして最後には、『最終指令自爆せよ』。もしかしたら、現存する最古のものかもしれませんね。いや、よく残っていたと思いますよ。


 余談ですが、このイベントに参加していたのは、頭脳警察との共演も多かった安全バンド、そしてメイン扱いだったのはフラワー・トラヴェリン・バンド、あとはジュリエットというグループで、このジュリエットというグループはあまり知らなかったのですが、調べてみたら、後年、沢田研二さんのバックバンドで重要な位置を占めてきた柴山和彦が所属していたグループだそうです。これもまた興味深い事実です。



『WAR IS OVER…?』 1972年8月15日 日比谷野外音楽堂

 1. 赤軍兵士の詩

 2. 銃をとれ

 3. さようなら世界夫人よ

 4. お前と別れたい

 5. 滅び得た者の伝説

 6. 時々吠えることがある

 7. お前が望むなら

 8. 歴史から飛び出せ

 9. 戦争しか知らない子供たち

 10. 嵐が待っている

 11. 最終指令自爆せよ



 DISC2は、1973年8月4日に開催された白樺湖音楽祭における音源。これは今まで聴いた事もない音源なので驚きました。当時の日本のロックシーンでは、地方でのライブは少なかったと思いますので、よく音源が残っていたというか、どういう経緯かはわかりませんが、よく頭脳警察がやって来たのだと思います。

 8月4日にロック系、5日にジャズ系のアーチストの演奏が行われたといいますが、資料が少なく詳細は不明です。実際にライブを見に行った人によるドキュメントを読んだのですが、初めての開催だという事で、運営も慣れていなかったみたいです。席も椅子とかも何もなく、芝生に座って見ていたのだとか。そして夕方ぐらいから、かなりの豪雨となったようで、長時間にわたって中断されたとの事。その為、途中で観客の大半は帰ったといいます。頭脳警察側も機材トラブルもあり、最初は出演中止のアナウンスもされたらしいですが、納得のいかないファン(一部のファンは過激でした)と主催者側が揉めた挙句、結局、天候が回復してから頭脳警察が出演することになった、そういう経緯もあったようです。当然ながら演奏時間は短くなりましたが。


 この日の演奏は、一時脱退していたトシも復活し、新しいメンバーとして鈴木健一さん(g)、鈴木良輔さん(b)の鈴木兄弟が参加しています。残念ながら数か月で脱退することになりますが、演奏的にはかなりの実力がありました。特に『銃をとれ』の演奏は、スピード感もあり、『三里塚幻野祭』におけるPANTAとトシの二人による演奏、第28話参照の『頭脳囃子』におけるバックが四人囃子の時の演奏と比べても遜色のないものです。初めて聴いた時は驚きました。ただ、PANTAが望んでいた音とは違っていたのかもしれません。


 https://www.youtube.com/watch?v=x3AIHy1JQec


 トラブルが続いたため、短い時間の演奏でしたが、内容は充実していました。しかしながら、演奏が終わってもアンコールを求めて観客は帰らず(当日の不手際の鬱憤もあったのでしょう)仕方なくPANTAがギター1本で『それでも私は』を歌い大合唱となりましたが、主催者側に強引に止められ、また怒号が飛び交う事態となって終わります。まさに昭和を感じさせる貴重な記録だと思います。


 余談ですが、ロック系のアーチストで出演が確認されているのは、頭脳警察、四人囃子(トラブルの影響で演奏されたのは『一触即発』の1曲のみだったとの事)、三上寛と青葉城(三上寛さんもブレないで自分のスタイルで演奏し続ける、尊敬に値するアーチストです。アクが強すぎてなかなか他人には勧めづらいですが)、ジュリエット、そしてその時はサーカスというグループ名を名乗っていたようですが、あの加納秀人さんが率いる外道がデビューライブを行ったとの事。加納さんはその時から派手な衣装で現れたようです。長時間のイベントの為、他にも参加したグループはあるようですが、もしかしたら地元のアマチュアバンドとかも出演していたのかもしれませんね。もっと詳細がわかるような資料があれば見てみたいです。



『白樺湖音楽祭』 1973年8月2日 長野県白樺湖畔


 1.銃をとれ

  2. コミック雑誌なんか要らない 

3 .さようなら世界夫人よ

  4. やけっぱちのルンバ

  5. 間違いだらけの歌

 6.銃をとれ

 7.それでも私は

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