第31話 頭脳警察『MUSIC FOR 不連続線』

 PANTAと演劇、これはなかなか結び付かないものとは思っていました。PANTAが寺山修司さんをリスペクトしていて、後に寺山さんの『時代はサーカスの象にのって』の詩に曲を付けて歌ったり、寺山修司さんをテーマにしたアルバムを出したりした事は知っていますが。それ以外となるとイメージが湧きません。


 しかしながら頭脳警察が劇団・不連続線に楽曲を提供してきたという事実があります。何度か話に出てきた『最終指令自爆せよ』という曲、実はこの劇団の演劇のタイトルに使われていたんです。頭脳警察が音楽を担当した演劇、『にっぽん水滸伝』、『にっぽん水滸伝 二の替わり 魔界転生血風録』、『にっぽん水滸伝 最終指令自爆せよ』、『いえろうあんちごね 特別攻撃隊スターダスト』、『 いえろうあんちごね 第二部 敵中突破悪所之荒事』、『いえろうあんちごね 第三部 凶状旅奥之細道』の六つの作品の劇中で使用された音源をまとめたのが本作となります。殆どの作品が劇団を主宰する菅孝行さんが作詞(『最終指令~』のみ劇団日本の三原元さんの作詞)、そしてPANTAが作曲をしています。(作曲家名は頭脳警察の作品での登録名であるPANTAX’S WORLDとなっています)またインストゥルメンタルの曲も収録しています。不連続線の役者が歌う曲もありますし、PANTAがボーカルをとっている曲もあります。それが合計で20曲ほど。録音状態は良くないので(実際に演劇で使用されたりしていますので)音質的には期待は出来ませんが、頭脳警察の裏サイドとも言うべき貴重な音源となります。ある意味、未発表曲集とも言えますが。

 なお、PANTAとトシ以外のメンバーのクレジットは残されていないので、他の演奏者は不明となっています。まぁ完成度に関してはまちまちですね。インストの曲では、なかなかカッコいいフレーズの曲もあり、新鮮には感じます。ただ役者が歌うものに関しては、素人っぽさが見えますね。これは仕方がない事ですが。


 注目すべきは、頭脳警察のアルバムに収録される曲も含まれている事ですね。ただ『落ち葉の囁き』は収録されているのはカラオケバージョンですが。実際に演劇では歌詞付きで歌われたようです。しかしながら当時の音源は残っていないようです。『落ち葉の囁き』に関しては、アルバム収録のヴァージョン、アルバムよりもフレーズの多いロングバージョン、更に役者の台詞入りの不連続線バージョンがある事になります。『真夜中のマリア』は元々インストの曲になりますね。頭脳警察のインストの曲は少ないのですが、ギターのフレーズが印象的なこの曲は、後に別の映画の収録曲にも採用されています。この2曲は『悪たれ小僧』のアルバムに収録されています。

 そして『見知らぬ友への反鎮魂歌』と『うたかたの命』は、後になってPANTAのソロのライブでも歌われることになります。『うたかたの命』はやや歌謡曲っぽさはありますが、ギターがカッコよく、なかなかの佳曲かなと。なお、『つれなのふりや』という曲もありますが、これはPANTA&HALの曲とは別の曲となります。アイデア自体はこの頃からあったみたいですね。因みに『つれなのふりや すげなのかおや』というのは、安土桃山時代の『陸達小唄集』に収められている川柳からのものです。


 ブックレットには、菅孝行さんや三原元さん、PANTAのインタビューがあり、読みごたえがある内容となっています。菅さんと三原さん、そして『三文役者』の花之木哲さんとは皆、繋がりがあったという興味深い話もあったりします。どこかで公開してほしいなと思う位の充実した内容ですが、残念ながら現在、このアルバムは入手困難となっています。インディーズからの発売ですし、再発は期待出来ないですし、Youtubeとかにも上がっていないんですね。マニアなファン向けの作品だから仕方がないですが、当時の演劇に使用されたものですので、演劇ファンにも聴いてもらいたいと思ってはいます。


 余談ですが、『最終指令自爆せよ』という曲は、PANTAが初めて関わった演劇関係の曲で、作られたのは1971年頃という事です。(『オリオン頌歌』もこの時期に依頼されて作っています)『セカンド』に収録しようと検討されたのですが、「自爆せよ」のタイトルが引っかかるのではないかと思われ、当然ながら収録はされませんでした。案の定、『セカンド』が発売された同時期に、テルアビブの空港乱射事件が発生してしまいます。自爆テロの先駆けともいえるこの事件が起こったのが1972年。ここでも時代とシンクロしてしまいます。

 そしてブックレットによると、菅さんから『最終指令~』のタイトルの使用と挿入歌の許可の依頼があって使用許可を与えたとの事。ずっと演劇の為の書き下ろしの曲と思っていたので、事実関係を知ってスッキリした気分でした。

 PANTA曰く、「芝居のことをまるでわかっちゃいないロック屋と、音楽をあんまりわかっていない劇作家との出会いは、まったくトンチンカンな組み合わせだ」

という事ですが、PANTAと劇団不連続線との関係は、劇団が解散するまで続きました。これだけ長い間、関係が続いたのは稀有な例だと思います。頭脳警察も75年末に解散はしていますが、PANTAはそれでも劇団との関係を続けていました。最後の公演では、PANTA&HALが演奏をしたといいます。どこかに音源とか残っていないかなぁ。

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