第27話 PANTA『NAKED』

 スタジオ録音のアルバムは、頭脳警察の『歓喜の歌』以降、10年程発売しない状態となります。しかしながらPANTAは活動をやめたわけではなく、ライブもコンスタントに行っていました。今までほぼ1年に1枚程度の頻度で出していたのにどうしたのだろうかとも思いましたが、後年のPANTAのインタビューで、90年代の頭脳警察の復活のテーマである『万物流転』、PANTA流の解釈では、「世の中は絶え間なく変化しているのではなく、実際の世の中は何も変わっていなくて、バカな事ばかり繰り返している」と語っています。その為、頭脳警察の活動休止後は、ライブ以外は、音楽とは関係のない仕事やゲームに没頭する等していたのだとか。

 しかしながら、アンドレイ・タルコフスキー監督の映画『サクリファイス』にて語られていた言葉、「世の中は同じことばかりを繰り返しているけれど、少しづつ変わっている。いや変わらざるを得ないんだ」にハッとしたそうです。「大きく振りかぶって新しい事をしなくても、世界は変わっているんだから、自分は同じことを繰り返してもいいんだ」という境地に達したとの事です。


『NAKED』は、そんな期間中に発売されたライブアルバムです。1993年2月25日に日清パワーステーションで行われたライブとなります。余談ですが、作品にもさせてもらった裸のラリーズのライブや友川カズキさんのライブを見たのも93年2月の事。自分の人生の中では最も濃い時間帯を過ごした日々でした。閑話休題。


 92年に大ヒットしたエリック・クラプトンのアルバム『アンプラグド』の影響か、アコースティックブームに近いものがありましたが、PANTAはアコースティックに無理に拘る事はしないで、あえて『NAKED』(裸のという意味)というタイトルを付けたのだと。

 参加メンバーは、ギターに『クリスタルナハト』以降、PANTAがもっとも信頼しているギタリストである菊池琢己さん。(後になってPANTAとのアコースティックデュオである『響』を結成します)更にトシが頭脳警察以降に結成したグループである『シノラマ』の主要メンバーが参加します。トシ(Dr)、ロケット・マツ(Key)、松井亜由美さん(Vn)。シノラマの演奏は、このトシ、ロケット・マツ、松井亜由美さんのこのメンバーでのライブを見た事がありますが、まるで映画の1シーンが頭に思い浮かぶような、サントラとも違う不思議な感じの音楽です。全体的には静かな感じの曲が多いですが、 時には激しい演奏もあったりします。実力は折り紙付きですね。


 トシがメンバーにいるので、頭脳警察的なものを期待しがちですが、あくまでシノラマのメンバーとしての参加で、PANTAの『NAKED』な部分を引き出す為のサポート役に徹しています。ファンはおそらく頭脳警察的なものを期待していたと思いますので、このアルバムは評価が分かれています。攻撃的な曲を求めていた人にとっては期待外れと。しかしながら、決して駄作ではないと思います。ソロの曲もアレンジが変えてあり、新鮮な気持ちで接することが出来ますし。実際、1曲目の『やかましい俺のロックめ』とか2曲目の『浚渫』は、こちらのアレンジがいいのではと思う程です。


 そしてこのアルバムの魅力は、多数の未発表曲、アルバム未収録曲が演奏されている事です。『J』は、PANTAの子供の頃の思い出を歌った曲。PANTAの父の友人のメリックという軍人が歌ってくれたという『ケンタッキーの我が家』。これがPANTAの音楽の原点と言いますが、曲の最後にも歌われています。アコースティックギターをバックに想いを込めて歌うPANTAは神々しささえ感じられます。

 他にも亡くなった友人の詩人の詩に曲を付けた『少年のつぶやき』、『クリスタルナハト』の収録候補だった『風の旅団』、そして狂気の大作『マーラーズ・パーラー』の続編である『マーラーズ・パーラーⅡ』が演奏されたのは嬉しい所です。それにしても完全なアコースティックではないですが、それでもPANTAの良さが充分に感じられます。決して技術的に高くは無く、歌も絶賛される程の上手さこそありませんが、PANTAにしか出せない味があります。それ以上は求めませんが。


 https://www.youtube.com/watch?v=J0IcQPxkYKM


 そしてアンコールでは、これも『クリスタルナハト』の収録候補だった『月とクリスタル』(アルバムでは最後に収録されています)に続くは、PANTAの永遠のアイドルであるフランス・ギャルのレアなナンバー『ディエゴ』。続いて『オリオン頌歌第2章』。実は『ディエゴ』のアンサーソングが『オリオン頌歌第2章』と語られました。60分強に編集されていますが、なかなか聴きごたえのあるアルバムだと思いますね。ああ、やっぱり『オリオン頌歌第2章』はいい曲です。


 https://www.youtube.com/watch?v=IJj3tWzgKWU



 余談ですが、 ポール・マッカートニーがこのコンセプトに感銘を受け、後に『Let It Be... Naked』を製作したのは有名な話です。

 ……、すみません、大嘘です。そんな事実はありません。PANTAの方が10年も前に『NAKED』を出していた事を言いたかっただけです。


 このライブアルバムですが、元々、日清パワーステーションの5周年記念のイベントで、来場者の希望する人のみが予約購入出来るはずだったのですが、いつの間にかインディーズからながら普通に販売されていました。将来のレア盤になるのではと思って、会場にて複数枚予約したのは内緒の話です。JASRACのシールが貼ってあって、パワーステーション5周年のロゴが小さく裏面にあるものは、会場で予約して後日郵送されてきたバージョンです。だからどうしたと言われてもそれだけですが。

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反逆の軌跡~PANTA,頭脳警察作品解説~ 榊琉那@屋根の上の猫部 @4574

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