第26話 頭脳警察『LIVE!』

 90年代の頭脳警察が復活する直前だったと思います。当時愛読していたミュージックマガジン誌の広告に、頭脳警察のライブが発売されるとの予告がありまして、まぁその時は頭脳警察が期間限定で復活するなんて思わなかったので、(何だか凄い事だ)と思っていた記憶が残っています。その時点で自分にとっての頭脳警察は、『伝説的なグループ』ぐらいの知識だったはずだと。それから何号か後に、アルバムの詳細について書かれた広告が載っていたと記憶してます。正式な頭脳警察のアルバムというわけではないようで、どうやら発掘盤的な存在のようでした。発売したのは、24話で記した『幻野EVIDENCE』を発売した会社です。


 この時点で頭脳警察は、ライブ音源を殆ど発表していませんでした。『1』が再発されるのは、まだずっと先、『幻野EVIDENCE』で聴ける1971年の三里塚のライブ音源のみでした。どちらも、PANTAとトシの2人のみの編成です。それに反して、『LIVE!』の音源は、1975年11月、三ノ輪モンドで行われた解散直前のもので、PANTA、トシに加えて、勝呂和夫さん、石井正夫さんの『悪たれ小僧』のレコーディングメンバーに加え、ドラムに加入したばかりの八木下剛さんが参加しています。初めて発売されることになるエレクトリックフォームでのライブに加え、ワンマンライブをほぼ収録していますので、ボリュームも満点。(2枚組での発売でした)昔からのファンにとっては、大きな事件と言えるのではないかと。


 その存在を忘れていたような頃、レンタルCD店にてこのCDを偶然に発見し驚いた記憶があります。PANTAのソロのCDは幾つか購入していましたが、頭脳警察に関しては、まだこの時点では聴いた事がなかったのです。試しに聴いてみようかとレンタルしてみました。 記憶に違いがなければ、これが自分にとって頭脳警察とのファーストインパクトでした。


 公式に録音されたというわけではなく、誰かが会場で録音し、モノラルで録音された音質は決して良くないような、いわば海賊盤のようなものです。しかしながら、1曲目の『嵐が待っている』から感じさせるこの迫力はどうだ。後に聴くスタジオ録音盤よりもカッコいいというか、これがあの頭脳警察なのかと感心したものです。そして続く『ふざけるんじゃねえよ』の尖った感じにも圧倒されました。これが伝説と言われていたグループなのかと。ヤバいものを知ってしまったというワクワク感も感じていたり。そしてインプロを演奏してからの『マラブンタ・バレー』。この尖った曲の連続で、完全に頭脳警察のファンになりました。


 静かなナンバーが続いた後は、自分にとっても好きな曲である『それでも私は』。自分の中のもやもやした部分を吐き出すようなPANTAのがなり声に聴き入ってしまったと思います。その後は、PANTAのソロアルバムに収録される曲と未発表曲の『ほうき星』。未発表曲は、ちょっとした小品という感じで、PANTAらしからぬほのぼのとしたものです。


 後半は、当時の最新作であった『悪たれ小僧』のナンバーを中心としていますが、『間違いだらけの歌』や『詩人の末路』といったナンバーも演奏。『詩人の末路』は、ライブで演奏したらこんなに迫力があるのかと、後になって聴き直したら思ったものです。残念なのは『戦慄のプレリュード』が演奏されなかった事。解散直前でドラムも八木下剛さんに変更したばかりでしたが、演奏は安定していましたので、この面子で演奏してほしかったと。そして『落ち葉の囁き』は、アルバム収録のものとは違うロングバージョンとなります。『悪たれ小僧』は、スタジオ盤とは違うレアなアレンジです。


 そして『真夜中のマリア』に続きラストに演奏されたのは、『あばよ東京』。最近入手した、『増補版・頭脳警察 70年代、日本ロック胎動期の証言者たち』という書籍には、(公式HPでも特に告知はなかったので、買い逃す所でした。偶然情報を知って助かりました)当時のメンバーの石井さんと更に増補版で追加された勝呂さんのインタビューが掲載されていますが、『あばよ東京』は、まだ完成をしていない状態で録音が開始され、そこで完成されていったとの事でした。メンバーのテンションも凄かったので、数テイクで完成したといういわくつきの曲です。何度も書いていますが、ここぞという時に演奏する曲で、生前、PANTAがバンドで演奏した最後の曲でもあります。当然、ここでも尋常でないテンションで演奏されます。爆音で再生したら意識を持っていかれかねないかと。


 ライブの完全収録ではないですが、(MCと数曲はカットされているみたいです)当時のライブの全容はこれでわかると思います。革命三部作は演奏されていませんが、そんなものは関係ない様な充実した演奏です。誰にでも勧められるようなシロモノではないですが、興味があれば聴いてほしいとは思っています。幸いにYoutubeにアルバムの全編が上がっていますので。(いつまで残っているかはわかりませんが)


 https://www.youtube.com/watch?v=Hzh3BpezmpU&t=35s



 余談ですが、このCDを発売した会社は、発掘音源を多数発売していまして、再発される事はないだろうと言われていた日本の伝説的ロックバンドのジャックスのアルバムを復刻させた功績があります。(後年、東芝から正式に再発されましたが)ジャックスのCDBOXに収録されているライブ音源は、未だにこれでしか聴けないものもあります。90年代半ばにレーベルが一時休止する時に発売されたベスト盤には、水橋春夫さんが在籍時のジャックスのライブ音源(それも高音質)に加え、フォーク・クルセダーズの発売中止となった『イムジン河』のシングルバージョンが初めて収録される等、歴史的な価値を持つものです。一応、頭脳警察もこのベスト盤に『LIVE!』から2曲収録されていますが、これでは霞んでしまいます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る