第25話 V.A『THE COVER SPECIAL』

 PANTAは、予てから『日本語のオリジナル』に拘る事を公言していたので、頭脳警察やソロのライブでは、他者の歌を歌う事は少なかったです。っていうか、多数のオリジナル曲を持っていたので、カバーを歌う必要がなかったというべきですね。でも全く興味がなかったわけではなく、スウィート路線の第3弾は、結局実現はしませんでしたが、洋楽のカバーを考えていた事からも、本当は歌いたかったんじゃないかなと思います。


 アナーキーの仲野茂さんの希望から企画がスタートした『THE COVER』。本当は、仲野さんがアナーキーをバックにして、PANTAに頭脳警察を、柴山俊之さんにサンハウスの曲を歌ってもらいたかったのですが、セルフカバーと言うべきところをカバーと言ってしまった為、PANTAと柴山さんがカバーをやってみたい曲について話が盛り上がってしまい、後に引けなくなってしまったと。後から二人に事情を説明して頼んでみたら、「今はやりたくない」と両者から拒否され、カバー曲のイベントに発展したとの事です。第1回目は1987年5月の新宿ロフトで。客席以上に演奏者の方が盛り上がったという話です。以降、3人で幹事の持ち回りをする予定でしたが、柴山さんが幹事を面倒くさがって逃げ回っていたという話もあったとか。因みにPANTAが演奏したのは、ライチャスブラザースの『振られた気持ち』やウォーカーブラザーズの『太陽はもう輝かない』といった自分のルーツと言うべき好きな曲だったとか。


 このアルバムは、1988年2月6日、渋谷公会堂で行われた第3回目の『COVER』イベントです。ロフトから渋谷公会堂と会場が大きくなったのは、たまたま日本に来ていた元ニューヨークドールズのジョニー・サンダースが参加することになったからだと言われています。どういうルートで話がいったかは知りませんが。

 柴山俊之ユニット、PANTAユニット、ジョニー・サンダースユニット、仲野茂ユニットに分かれて演奏されましたが、参加したのは強者揃いです。柴山さんのユニットには、アースシェイカーの西田昌史さん等が参加、PANTAのユニットには、中山、中谷、西山、菊池のPANTAバンドのメンバーに、鈴木慶一さんや有頂天のケラやCOU、ARBの石橋凌さんやキース、白浜久さんが参加しています。因みに仲野茂ユニットには、花田裕之さん、かまやつひろしさん、そして忌野清志郎さんまで参加しています。まさにカバーのお祭りですね。


 柴山さんのユニットは、ドアーズの『ハートに火をつけて』からのスタート。インプロ部分もしっかり演奏しています。そして西田さんボーカルの『レモンティ―』は、柴山さんのボーカルとは一味違った良さがありました。


 そしてPANTAのユニットは、サイケデリックメドレーが強力でした。同じくドアーズの『ジ・エンド』からビートルズの『トゥモロー・ネバー・ノウズ』、ジェファーソン・エアプレインの『ホワイト・ラビット』から『あなただけを』(冒頭でストーンズの『黒くぬれ』のイントロ)そしてもう一度『ジ・エンド』を。PANTAとサイケデリックは意外な感じですが、そういえば、日劇でジム・モリソン張りの『事故』を起こしていたんでした。『ホワイト・ラビット』はボーカルを鈴木慶一さんがやっていて、これはいい雰囲気が出ていました。石橋凌さんは『ルート66』でボーカルを担当していますが、この手の曲の迫力は流石です。この曲は、よくセッションで歌うとの事ですので、お手のものですね。聴いていて気持ちがいいです。


 https://www.youtube.com/watch?v=uBPLSt7LSYU&t=3s


 ジョニー・サンダースはゲスト扱いですので程々という感じですが、花田裕之さんとの『ステッピンストーン』は一本取られたという感じです。ジョニー・サンダースは、このライブの3年後に38歳の若さで亡くなっています。


 ラストの仲野茂ユニットは、収録されているのはパンク系ではなく、60年代末期のロックが輝いていた時期の作品です。フリーの『オールライト・ナウ』といった通好みの曲も、こんなにカッコ良かったのかと思わせる、演奏者が楽しんでいるいい演奏です。クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの『雨を見たかい』も歌うのが嬉しいと感じるようなそんな演奏です。そしてPANTAの「GESANG DES SOLDATEN DER ROTEN ARMEE」のイントロからの村八分の『鼻からちょうちん』は日本版ストーンズを感じさせます。ラストのステッペンウルフの『ワイルドでいこう』は、まさにお祭り騒ぎのセッション。演奏者も観客も一緒になって盛り上がるのは、カバーの醍醐味と言えます。その場に居たかったと思わせる、いいイベントですね。アルバムに収録されていない曲も素晴らしいものが多かったといいますし、完全版がいつかリリースされればいいなと思ってます。


 https://www.youtube.com/watch?v=2q4WPHS0Xw8


 余談ですが、このライブアルバムはビクターから発売されています。この手の色々なアーチストが参加しての企画物は、なかなか再発しにくくて入手困難な状態でした。しかしながら、2017年にタワーレコード限定でリマスタリング&紙ジャケで再発されています。完全生産限定盤という事でしたが、少し前まではタワーレコードのオンラインショップでも注文可能でした。自分のブログでも取り上げたので、現在は品切れ状態みたいです。(それは己惚れですが)

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