第24話 V.A『幻野 幻の野は現出したか '71日本幻野祭 三里塚で祭れ』

 頭脳警察の音源が初めて世に出たのは、当初、1ヶ月程で回収処分となった『頭脳警察セカンド』と思われているのですが、実はこれ以前にライブアルバムの出演者としてですが、発売されていたものがあります。それが1971年8月14日から16日にかけて三里塚にて開催された『日本幻野祭』を収録した『幻野~』です。『1』のライブ録音よりも以前の、現存する頭脳警察の音源の最初期のものとなります。


 成田空港建設をめぐる闘争は熾烈を極め、青年行動隊と言われる連中は、自分達の土地や生活を守る為に、機動隊との衝突を繰り返していました。流石に当時の事はリアルには見聞きしていませんので、後の文献等を読むしかないのですが、空港がパンク状態だったという危機的な状況だったとはいえ、三里塚の住民の意思を確認する前に建設を決定したというのは酷い話です。自分自身もしっかりと調べていないので全て鵜呑みにする事はしないですが、兎に角、最初から対立をしていたのは事実ですね。


 そんな中、青年行動隊から、頭脳警察へ出演依頼の打診があったとの事。闘争に明け暮れて住人は祭りも楽しめないから、祭りを企画すると。それに是非参加してほしいと。最初PANTAは、「祭りをやりたいならロックをやらないで、農民も楽しめる盆踊りをやった方がいいんじゃないか」と依頼を断ったのですが、青年行動隊の熱心なアプローチに負けたというか、情に脆い部分があるPANTAは参加を決意することになります。まだこの時は、PANTAとトシの2人だけのメンバーの時期だったので、まだ身軽に行動出来たかもしれません。


『日本幻野祭』は、テレビマンユニオンの制作でライブアルバムとして発売されました。もっとも、マイナーなレーベルからの発売で、委託元もマイナーな存在のURCレコード。売れた枚数の詳細は不明ですが、まぁ殆ど売れていないと思われます。何と言うか、主体となった青年行動隊自体が録音については全くの素人だったので、セッティング表も用意されていない状態でまともな録音は難しかったとの事です。その結果出来上がったものは、会場から拒否反応が示されたフリージャズ、(高柳昌行さんや落合俊さん、高木元輝さんといった重要なジャズ系アーチストが参加)所々で発生していた論争、そしてDEW、ブルースクリエーション、そして頭脳警察の日本のロックの重要なアーチストの貴重な演奏を集め編集したものです。最後は日本のアンダーグラウンドの帝王的存在の灰野敬二さんが所属していたロストアラーフが全てをぶち壊すような破壊的な演奏をして締めくくります。オリジナル盤は2枚組でした。

 特筆すべきは、全体にわたってピリピリとした雰囲気が伝わる臨場感ですね。アーチストが演奏している最中でも、そこかしこで論争というか、言い争いが起こっている始末。通常なら演奏中に観客の声が入ってしまうのはNGですが、あえてそのままにしたのは正解だったと思います。今の平和な時代では考えられないような、演奏中に物が飛んでくるような危険な雰囲気。それを感じさせてくれます。その辺りは評価に値するかと。もっとも、実際にライブに参加しないと本当の凄さはわからないものですが。自分も嘗て、裸のラリーズのライブについて書いたものがありますが、本当の凄さの1割ぐらいしか伝えられないような気がして歯がゆく思ったこともあります。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330664417689713


 当然ながら、その後は再発される事もなく、闇に葬られていましたが、80年代に入り、ある会社からロックの演奏部分をまとめた編集盤である『幻野EVIDENCE』が発売されて一部のロックファンが注目する事にもなりました。CD化されたのは『PISS』が発売された辺り。その1年後に頭脳警察は復活する事になります。復活に向けてのシナリオの一つというのは考え過ぎだろうかと。


 幻野祭における頭脳警察の演奏は、『世界革命戦争宣言』、『銃をとれ』、『セクトブギウギ』(未発表曲)、『銃をとれ』(アンコール)です。まだレコードデビュー前ですので、余程ロックに詳しい人でないと存在は知られていなかったと思いますが、観衆と一体化するような盛り上がりは凄いものです。会場の雰囲気もあったかもしれませんが、同じライブ盤の『1』よりもずっと臨場感があり、勢いもあり、頭脳警察のライブ音源では一番好きなものですね。圧倒的な迫力は聴く価値があると思っています。


 https://www.youtube.com/watch?v=I3dUxWUgUiU


 因みに2枚組のアルバムのオリジナル音源に関しては、2003年に別で発売されたビデオ映像のDVD化したものも含めてCD化されています。当時の関係者のインタビュー、更に灰野敬二さんのインタビューも含めた解説は読む価値ありです。日本のロックのみならず、現代史における貴重な記録ですので、是非とも聴いてみてほしいものです。まぁ大多数の人には拒絶されるでしょうけれど。残念ながら、現在入手困難です。こういうのは一部の人だけなく、多くの人に聴かれるべきとは思いますが、現実は甘くないものです。


 https://www.youtube.com/watch?v=hDXyVnR4EII



 余談ですが、『セクトブギウギ』で歌われている『岡林の様に言ってるだけで 何もしないよりゃましだけど』、当時、PANTAは嫌っていたという岡林信康さんの事です。

 そしてPANTAがよくネタにしていた幻野祭の出演時のギャラ、カボチャ6個と米一袋だったとの事。命がけの出演にしては安すぎますが、まぁ半分ボランティアみたいなものだったのでしょうね。


勿論、このアルバムに収録されている以外のアーチストも演奏していますし、アングラな劇団系の団体もパフォーマンスを行っています。集団で全裸パフォーマンスを行った『ゼロ次元』という団体は、ビデオにも収録されていますが、当然、黒塗りの部分が出てきています。話によると、J.Aシーザーも幻野祭に参加しているとの事ですが、確認は取れていないです。そして、フリージャズの伝説的なアーチストである阿部薫さんも演奏を行いましたが、演奏の後半部分を収録したテープが何故か行方不明となっています。誰かが盗んだのか?もし当日の演奏を収録したテープがあれば、非常に価値のあるものだと思います。


 灰野敬二さんとPANTA、二人は交わる事はないと思っていましたが、頭脳警察45周年、寺山修司没後30年を記念して発売された、寺山修司さんの作詞の歌を歌った異色作『暗転』でまさかの共演をしています。『詩の朗読という詩』という作品に灰野さんが曲を付けてPANTAが朗読をするもの。勿論、灰野さんはギターも弾きます。その当時は自分は音楽から離れていた時期なので、詳しい経緯は知りませんが、これはビックリしましたね。最初に知った時は、ありえねぇと思ったものです。


https://www.youtube.com/watch?v=Sxh5OGYpfP0



 三里塚の闘争に関しては、尾瀬あきらさんによる漫画『ぼくの村の話』を読んでいました。三里塚の事を取り上げているもので、当時の様子をわかりやすく描いています。(全7巻) 再販とかはされなかったですが、現在は電子書籍化はされていますので、興味ある方は読んでみては如何かと。まぁ尾瀬さんの代表作の『夏子の酒』の方をまず勧めますけれど。一応、お断りしますが、あくまでも漫画ですのでフィクションというのを念頭におくのを忘れないでくださいね。 


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