第22話 頭脳警察『歓喜の歌』

 1991年2月27日、渋谷公会堂。東名阪3か所でのツアー『最終指令自爆せよ』の最終日を持って頭脳警察は『自爆』します。僅か1年の儚い命でしたが、与えたインパクトは大きいものでした。1年間走り続けた集大成とも言えるライブ。70年代頭脳警察ラストの曲でもある『あばよ東京』が最終日のみ演奏され、テンションの高い演奏は、後の語り草にもなりました。またライブを完全収録したものではないですが、ライブの全容をほぼ収録しているビデオも後に発売されました。画質が良くないのが難点ですが、記録として残っているだけでも価値があるものかと思います。


 90年代頭脳警察の最後の置き土産となったのが『歓喜の歌』です。『7』の時の様な攻撃的なナンバーは少ないですが、裏の意味がある様な歌詞をメロディアスに歌ったりしています。パブリックイメージを求めると肩透かしを食うかもしれませんが、曲を味わえば味が出てくるような、そんなタイプのアルバムですね。


 1曲目の『最終指令自爆せよ』は、70年代の頭脳警察時代のナンバーです。実は頭脳警察は、演劇集団不連続線の音楽を担当していた時もあり、『にっぽん水滸伝第3部 最終指令自爆せよ』で使用されていた曲です。70年代から度々ライブでも演奏されてきましたが、音源として発表されるのは初めてです。


 これは70年代に演奏された時の音源ですね。まだPANTAが青臭く感じます。


 https://www.youtube.com/watch?v=_ZxtTEDM06k


 またもう1曲、昔のナンバーがありまして、三原元さん作詞の『オリオン頌歌』。『クリスタルナハト』収録の『オリオン頌歌第2章』は続編になりますね。『最終指令~』、『オリオン~』と三原さんの曲を絡めてきたのは、恐らく意味があるのでしょうけれど、真意は分かりませんでした。


 https://www.youtube.com/watch?v=X-gFlvlRDcM


 今回のアルバムも難解な言葉が多数出てきますが、それ以外にも普通に聴いてもわからないネタも転がっていたりします。例えば、『焔の色』という曲は、ベートーベンに拘っています。元々、ベートーベンには『火の色』という曲があり、それを拝借。歌詞には、『笑ってくれ 喜劇はもう終わったんだと』が出てきますが、これはベートーベンの最後の言葉との事です。『教会の鐘の音が もう聞こえない』という歌詞は、ベートーベンがいつもの教会の鐘の音が聴こえなくて、耳が聞こえなくなった事を自覚したというエピソードからです。更にこのアルバムが頭脳警察としては9枚目のアルバムという事で、ジャケットにいるのは9人。最後を飾る曲は『歓喜の歌』。勿論、ベートーベンの交響曲第9番に因むものです。まぁ普通に聴いてもわからないネタですが、これは当時のファンクラブの会報のインタヴューに掲載されていたんですよね。『あばよ東京』のイントロのフレーズが交響曲第5番『運命』をオマージュしたものですし、見事に繋がっているんです。


 https://www.youtube.com/watch?v=Y4UQFxU3x64


 最後の曲の『歓喜の歌』ですが、このアルバムに込められたテーマというかイメージの聖書を感じさせるものですね。世界に必ずしも希望はないかもしれないけれど、見えない権力というか支配しているものに反逆をし続ける。頭脳警察はいつまでも戦い続けるのでしょうね。


 https://www.youtube.com/watch?v=LoDhR0SJQpI


 余談ですが、このアルバムは聖書、カバラといったものの影響が強いのですが、特に難解な歌詞なのが『セフィロトの樹』。そして後年、『新世紀エヴァンゲリオン』にセフィロトの樹が使われるのを教えられたPANTAは、エヴァの世界にのめり込んでいくことになります。しかし思ったのですが、エヴァとPANTAの作品には共通点があったりします。もしかしたら庵野さんはPANTAの作品を参考にしていたのかもしれないと想像してしまいます。(まぁありえないと思いますが)

『セフィロトの樹』って使えそうだな、これを発展させたら面白いなとか、『歓喜の歌』か、ベートーベンの合唱ならクライマックスに使えそうだなとか、『クリスタルナハト』か、ドイツの女の子とかキャラに出してみようかなとか、『マラッカ』のタンカーってインパクトあったな。だったらキャラの名字は軍艦にしてみようかとか、何だか短編が書けるぐらいのネタが出てきそうです。まぁ書きませんけど。


 https://www.youtube.com/watch?v=RXU3NYkIviM


 ジャケットのまるで『最後の晩餐』を思わせるものは、コンピューターで処理してぼかしていますが、実際は綺麗に撮影されています。全員全裸なのでそのままは無理だったようです。


『歓喜の歌』のラストの合唱部分には、多数の人がゲストで参加して歌っています。元スターリンの遠藤ミチロウさんやマルコシアスバンプ、更に荻野目洋子さんや何故か清水ミチコさんまで参加して盛り上げています。




 ☆☆☆


 90年代の頭脳警察の活動終了以降、PANTAは10年程スタジオ作を出さなくなります。(ライブは定期的にやっていましたし、ライブアルバムや企画物は出したりはしていましたが。本人は10年間ずっとゲームやってたって言ってますが、そんな事ないでしょう)

 そんなわけで、ひとまずここで区切りを付けたいと思います。今後は不定期での更新を考えます。2010年以降、自分も音楽を全く聴かなかった時期もあり、入手出来ていない作品もありますので、書ける分だけ書くつもりです。映像物も整理したいですしね。頭脳警察のYoutubeの公式にも沢山の映像がありますので、お勧めを紹介したりとか。まぁ出来る時にやれればいいかなと。どうせ読んでいる人は殆どいないので気楽なものです。



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