第19話 PANTA『PISS』
今回は、ちょっとシモな部分もありますがご容赦を。
ライフワークとも言える『クリスタルナハト』を完成させた後のPANTAは、まるで空洞がポッカリと空いたような状態でした。普段なら次作のアイデアが次から次へと出てくるのに、脱力感しかない状態だったといいます。そんなわけで、一年ほど、ぼーっとした日々が続きます。勿論、全く何もしなかった訳ではなく、例えば、花田裕之さんがいるルースターズに『鉄橋の下で』や『曼荼羅』といった曲を提供したり、アナーキーの仲野茂さんが主催のカバーソングのイベントに参加したりしています。
そんな中、時代が急変しようとしていました。1988年9月、昭和天皇の容態が急変、世の中は自粛ムードになります。派手な事が出来ない苛立ちが、この後1年以上も続きます。自粛ムードの中、ドイツでは『クリスタルナハト』から51年目となる1989年11月9日にベルリンの壁崩壊、更に数年後にはソ連の崩壊、そして湾岸戦争。
昭和が終わった後に始まった平成は、その後も衝撃的な出来事が起こり続けるのは承知の事実です。
自粛ムードの苛立ちの中、花田裕之さんをゲストに迎えて製作されたのが『PISS』。口の悪い人によれば、『クリスタルナハト』という宿便が出たから、残ったのは小便だけだ、という事だそうです。(因みにPISSとは小便を意味するスラングです)とはいえ、PANTAはその意味だけで付けたのではないと思いますが。調べてみると、Pissedだと、アメリカでは怒っているの意味に。Pissoffだと、うるさいとか出ていけの意味に。更にPiss aboutだと、ダラダラしているの意味に。自粛ムードでイライラしている気持ちと、何も思いつかなくてダラダラしている気持ちも表しているんじゃないかと深読みをしてみたり。真相はわかりませんけどね。
『PISS』は、難しさのないストレートなロックアルバムです。その辺りの感触は、『浚渫』に近いかもしれません。花田さんとは4曲ほど共作しています。自分はルースターズは殆ど聴いてなかったですが、花田さんは渋くてカッコいい人だなと感じましたね。PANTAに対しては、いい刺激を与えてくれたと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=sKEIjTtx1rs
ストレートなロックと言いましたが、歌詞をよく聴いてみると、PANTA特有の官能的な言葉使いが出てきたりします。『PISS』なら「オレを静めてくれよ おまえの唇で」とか、「いまはおまえに ぶちまけたいのさ」とか。他の曲もじっくり読むとニヤッとする部分が見つかるかと。
今回のアルバムは、PANTAのアルバムには珍しく女性のコーラスをフューチャーした曲も。『MOTICA』のコーラスは色気のある女性なのがいいんです。
https://www.youtube.com/watch?v=adPzgBeCMuk
花田さんとの共作で異色なのは、『蝗がとんだ』。群れを成して移動する蝗が、洗脳されて何も考えずに行動する人たちを示唆するようで、考えさせられるものがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=P0fFD8OBf80
そしてラストを飾るのは、『ONE NIGHT LOVER』。PANTAにとって唯一のデュエット曲。一夜限りの夜の相手をするのは、あの『真夜中のドア』で世界中に注目される事になった松原みきさん。これまた色っぽい声です。『KISS』の時のように甘すぎないのが自分好みです。もう二人ともこの世にはいないのが信じられないですね。
https://www.youtube.com/watch?v=r8c5t2rJ-ng
そしてこの後、時代の流れに乗せられるかのように、頭脳警察が復活することになります。この時点では極秘行動で、全く動きを見せていませんでしたけれど。
余談ですが、自分にとってのフェイバリットグループの一つがザバダックです。吉良知彦さんと上野洋子さんの二人組の時代が好きだったりします。吉良さんのギターと上野さんのヴォイス、ロック的なものとは全く違いますが、心に残るグループでした。(いつかライブレポートも書きたいです)
PANTAとの接点は全くないと思っていたのですが、『PISS』のクレジットを何気なく見ていたら、何とこのアルバムに二人とも参加している事を発見しました。吉良さんはギターで、上野さんはコーラスではなく、サンプリングオペレーターとしてでしたが。何処からの紹介だったのでしょう。
そして上野さんはもうPANTAとの関りは無いと思っていましたが、2018年に開催されたPANTA&HAL EXTENDEDという特別なイベントにてコーラスで参加していることを知りました。う~ん、見たかったなぁ。
『PISS』(小便)を出したんだから、次に出すのは『CACA』(大きい方)だなあと冗談めいて発言したこともありましたPANTAでしたが、まさか『PISS』から十数年後、本当に『CACA』が発売されるとは思っていませんでした。
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