第17話 PANTA『R☆E☆D』

 前作で自分の見せていなかった部分も曝け出し、新たな気持ちで作られたのが『R☆E☆D』です。最初にアルバムの予告編のようなものをレコード会社に提出したら、また小難しくなってわかりづらいと言われたそうです。レコード店に説明出来るような宣伝文句のようなものが欲しいと営業マンからの要請があり、どうしようかと思案する事に。元々、『闇からのプロパガンダ』というPANTA作の未完の小説を題材にアルバムを作っていたのですが、「どうせなら架空の映画のサントラみたいにしたら面白い」と。PANTAが書き始めたら、あらすじだけで原稿用紙80枚ぐらいになってしまう程にのめり込む事に。

 当然、これを仕上げないとレコーディング出来ないと、スケジュールは遅れることになりますが。更に実体のない架空の映画なのにスチール写真とかは撮影したりして。軍艦島でロケをするような凝りようです。結局、宣伝用はどうなったかはわかりませんが、発売されたアルバムには、小説の要約と色々なシーンが撮影された写真、更には架空の映画に対する、推薦文のような解説のようなものまで書かれています。元MUSIC STEADY編集長の市川清師さんが書いていますが、何故か肩書がAV評論家になっています(笑)。


『闇からのプロパガンダ』は、混沌とするアジアを舞台に、ジャーナリストの男と女エージェントの関りを中心とした、国際情報小説にアクションを組み入れた感じの小説という事です。タイのクラ運河計画に関する日本の企業とタイ政府との癒着、更に内乱が続く情勢、麻薬をめぐる対立、それらが複雑に絡み合い進む物語という感じですね。残念ながら、プロットは出来ていても、ラオスの食生活とか習慣とかが分からず、そこで止まってしまい、未完のままです。かなりの大作になるはずだったのに惜しいものです。


 前置きが長くなりましたが、『R☆E☆D』は、テーマ的に重いのですが、のめりこむと色々なものが発見できる、そんな奥深いアルバムです。

 昔からPANTAは、一般の人がまず使わないような言葉を歌詞に入れる事が多々ありましたが、この作品は今までよりもその傾向が強い気がします。

 1曲目の『VANISHING ROAD』こそ、ストレートなロックなのですが、

『まさかNewsをそのまま真に受けてるわけじゃないだろう』という歌詞は、今の時代にこそ聞いてもらいたいものです。

 2曲目の『クラブハウスで待つよ』は、普通に聴くとジャーナリストと女エージェントのやりとりの事なんですが、副題が『NUCLEAR CLUB 』なので、裏の意味は核に関する事でしょうね。歌詞に出てくる『キミのビキニ姿』も『スリーマイル・アイランド』も、そう考えると意味深ですね。さしずめ、『クラブハウス』とは核シェルターって所ですか。他にも意味深な言葉は幾つも使われていますが、裏で何を伝えたいのかは、自分の頭では謎解きは出来ませんでした。


 https://www.youtube.com/watch?v=ZmlKxz3srQ4


 そして3曲目のタイトル曲の『R☆E☆D』。この曲はPANTAのソロよりも頭脳警察として出すべきだったと思われる曲です。Revolution(革命)、 Evolution(進化)、 Devolution (退化)の頭文字をとったもので、当時のアジア~中東情勢を歌っています。それにしても、言葉を変えれば今の時代にも通用するのが凄いです。『正直に生きていけば 犯罪者にされるだけ そしてあの娘は 法律に殺された』という歌詞とかは、今の時代の方がしっくりくるかも。そして『どこがジハードなんだよ』も。ジハードはイスラム教徒が信仰を迫害されたり,布教を妨害された場合に,武力に訴える行為なのですが、テロのどこがジハードなんだよと思わずにはいられないです。


 https://www.youtube.com/watch?v=cQuT0JEKeRU


 他にも語るべき事は沢山ありますが、もう1曲、核に関する事を歌った『黒い虹』について。井伏 鱒二さんの『黒い雨』にインスパイアされたものと思っていましたが、改めてじっくりと歌詞を読んでみると、『38度線』という歌詞がある事ですし、隣国の事についての危惧についてでしょうね。今思うと、『いまのオレたちは 検問を避けて HANDMADEのケーキを運んでいるだけさ』の歌詞。昔は何とも思っていませんでしたが、核に関するケーキと言ったら『イエローケーキ』の事。イエローケーキはウラン含有量の高い粉末です。それを核を持ちたいと思っている国へ持っていったら、危険なものとなります。誰かが秘密裏に持ち込んだ事を示唆しているのでしょうか?

 更に『まるでスクリーン眺めているように オレたちは血に飢えたカメラ越しに NEWSを楽しんでいる』という歌詞。まるでリアルさを感じなかった湾岸戦争や同時多発テロの事を予言していたのでしょうか?それともJアラートが鳴り響く今の状況なのか?どちらにせよ、『いまのオレたちは明日のパーティーに着ていく服を考えているだけさ』という歌詞がまるで他人事のような今の状況を皮肉っているようです。


 https://www.youtube.com/watch?v=6beEqx1ruoA


 このアルバムの製作は、かなり苦労したと思われますが、これをやり切った事で、いよいよPANTAにとっての最大の大作となる『クリスタルナハト』に本格的に取り組むことになります。『R☆E☆D』に収録された珠玉のバラード『AGAIN&AGAIN』の間奏部でフランス語で語られる『ベルリンで会おう』の台詞、これは『クリスタルナハト』作製の決意表明と言えるものだと言われています。


 https://www.youtube.com/watch?v=SP6r8PM7roM


 余談ですが、『R☆E☆D』に収録の『地図にない国』という曲。冒頭の歌詞を読むと高校野球についての歌のように思えるのですが、実は物言いがついて修正されたものです。本来は『scribbling 70331』の副題が示すように、1970年3月31日に起こった、よど号ハイジャック事件の事を歌っています。歌詞に出てくる9人は、ハイジャックの実行犯の人数、その中の一人は、日本ロック界の闇のグループ、自分もライブレポートを書いた裸のラリーズの初代ベーシストの若林盛亮氏です。

 オリジナルの歌詞は、PANTAの詩集『ナイフ』に収録されています。またライブではオリジナルの歌詞で歌われた事も。


 https://www.youtube.com/watch?v=UmVKeVpQ9yo


 続けて演奏される『メルティング・ポット』は第11話でも少し触れた、当時は未発表のナンバー。後に録音される事にはなりますが、この時期のスピード感あふれる演奏の方が好みですね。

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