PANTAソロ その2

第12話 PANTA『KISS』

 PANTA&HALの解散後、PANTAは思いもよらないような行動に出ます。ファンからしてみれば、今度こそ噂の大作の『クリスタルナハト』が聴けるのだろうと思っていたのですが、次に発表されたのは、まさかのラブソング集でした。


 その時に30歳を過ぎていたPANTAは、『本来ならばティーンエイジャーの時期に歌うべきだったラブソングは、頭脳警察をやっていたから歌えなかった。もう歌うチャンスは無いと思うから今歌おう』、そういう考えのもとで『KISS』を製作したようです。『愛とか恋とか言っていれば、歌詞なんかどうでもいい』といった大胆な発言もあり、殆どの曲の作詞は、他の人に任せて、自分は曲に集中。唯一、盟友でもある橋本治さんと共作したのが『悲しみよ ようこそ』。橋本さんは実は昔、PANTAの近所に住んでいて、真夜中になったら集まって話とかしていたという事です。橋本さんというと、デビュー作の『桃尻娘』の印象が強く、軽薄な感じと思っていましたが、実は、1を聞いたら10帰ってくるような、百科事典の如くな知識の持ち主だとPANTAは語っていました。『悲しみよ ようこそ』は、どことなくウォーカーブラザースの影響を受けた様な仕上がりとなっています。


 https://www.youtube.com/watch?v=nQKEJQc2weU


 案の定というか、反響は大きかったです。当然、悪い方に。評論家の平岡正明さんは、1981年9月号のニュージックマガジン誌にて『パンタ、もとにもどれ』といった文を掲載しています。(現在発売中のMM増刊号のPANTA追悼本に、後のPANTAと平岡さんの対談を含めて掲載されています)

 ファンクラブからは不買運動が起き、よくネタにされる『パンタを殺して俺も死ぬ』といった、現在なら一発で案件となるファンレターが届く始末でした。まぁPANTA自身は、『なんで「パンタを殺して私も死ぬ」っていうのが来なかったんだろうね』と言っているくらいですので。如何にもPANTAらしいです。


 内容としては、PANTAとしては、思いっきり甘めにしたラブソングを集めています。編曲は全て矢野誠さんが担当しています。矢野さんは筒美京平さんにも評価されていたような人ですね。改めて聴いてみると、当然ながらシャウトは抑えられ、まるでエルビス・プレスリーを意識したような歌い方ですね。拘る部分には拘った結果かと思いますが。


 https://www.youtube.com/watch?v=hv7R4ozUy6w


 PANTA自身は、ファンに媚びる事はしたくない自分がやりたいと思う事をやっていく、そんな発言をしていますが、信念を強く持っていないと実行出来ないです。人は馬鹿だと言うでしょうが、自分はそんな生き方を貫いてきたからこそPANTAに惹かれてきたんだと思います。

 これからもずっと、このアルバムは真面な評価はされないと思いますが、誰かシティポップの変化球みたいな感じで評価してくれないかなと。流石に海外の人もPANTAまでは見つける人は少ないでしょうけれど。


 余談ですが、『KISS』の発売前に発売された石川セリさん(井上陽水さんの奥さん)の『ムーンライトサーファー』という曲は、PANTAの作詞作曲なんですが、この曲はシティポップの名曲とされているんですよね。PANTAのメロディメーカーとしての才能は素晴らしいと改めて感じられる1曲です。なお、PANTAが初めて『笑っていいとも』の『テレフォンショッキング』に出演した際に石川セリさんを紹介したのですが、PANTAは恥ずかしくて自分で電話出来ず、タモリさんに電話してもらっていました。


 https://www.youtube.com/watch?v=4uBbyOk9-ak


 ジャケットのベールを被った女性はマネキン人形っぽいのですが、実はジャネットという当時18歳のドイツ人の女の子だそうです。素人かモデルかは知りませんが、際どい事もやっていたとかいないとか……。


『KISS』が必要以上に叩かれたのは、『KISS』が発売される直前、頭脳警察のセカンドが再発されたからという意見もあります。確かに過激な『セカンド』のすぐ後に発売されたのがこの甘ったるいものだったら、怒りたくなるのもわかる気がします。

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