第6話 頭脳警察『1』
1975年12月31日。頭脳警察は解散をしますが、解散前にケリを付けなければならない事がありました。これをやらなければ裏切り者になると。それは発売されなかった『1』を発送する事でした。
頭脳警察の結成は1969年。ライブデビューは1970年4月。1970年5月には、日劇ウェスタンカーニバルで事故?を起こし、一部では有名となります。(日劇の事故記録にも記載があるとか)
学生運動家に勧められたという『世界革命戦争への飛翔』という本の巻末に収録されていた共産主義者同盟赤軍派 日本委員会の上野勝輝氏による『世界革命戦争宣言』に共鳴を受け、それをライブにて興奮のままアジってしまったら、それが反響を呼ぶことになりました。政治集会でのコンサートにも呼ばれるようになり、ドイツの詩人ブレヒトの詩に曲を付けた『赤軍兵士の詩』、煮え切れない気持ちや衝動を歌った『銃をとれ』は、何時しか『革命3部作』と呼ばれるようになります。
1971年の末にビクターと契約、1972年1月9日の京都府立体育館で行われた『MOJO WEST』と1月10日の東京都立体育館で行われた『オールジャパンロックフェス』の音源を使用してライブアルバムを制作することになりました。(音源に関しては諸説ありますが、頭脳警察の極めて初期のライブであるのは間違いありません)
原因は覚えていないと、PANTAは後に語っていますが、他のバンドメンバーをクビにしてしまい、残ったPANTAとトシだけでのライブとなりました。
ビクターの担当ディレクターは、自分の首をかけてでも発売すると意気込んでいましたが、第1話でも書いたように、1972年2月にあさま山荘事件が起こりまして状況が一変します。事件から1週間の立て篭もりは世間の注目を浴び、テレビに映っていた、発売されたばかりのカップヌードルが認知される結果となったりしています。当然ながら、『世界革命戦争宣言』だの『赤軍兵士の詩』だの『銃をとれ』だのと言った世間を刺激しかねない曲はどうかという意見も出てきたのでしょうね。残念ながらというか、当然というか、発売中止が決まってしまいます。
大手からは無理ならば自主制作の形で発売したいと、頭脳警察側は発売に向けて密かに行動を開始していたようです。一応形としては、ビクターの倉庫から何者かによってマスターテープが盗まれ、それを元に制作されたという事になっています。まぁバレバレですけどね。音楽雑誌とかにも時折情報が出ていたりして、金額がいくらとか掲載されていたと聞きます。それを見たファンが事務所に送金していたりしていたようで。
しかしながら、制作はなかなか進まなかったようです。『世界革命戦争宣言』や『赤軍兵士の詩』は、他の人が詞を書いていますし。(ヘルマン・ヘッセの詩を使った『さようなら世界夫人よ』は『セカンド』にも収録されているから、大きな問題ではないかな)
どちらかというと、『戦争を知らない子供たち』の替え歌の『戦争しか知らない子供たち』の方が問題かなと。(これに関しては許可はもらったようです。よく認められたと思いますが)そして『言い訳なんか要らねえよ』での放送禁止用語。これをそのままにするか修正するかとかあったかもしれません。
結局、完成したのは解散直前の事。約600枚ぐらい製作されたとの事です。ファンから送金された代金は、すでに無くなっていたので、PANTAが自腹を切っています。そして解散ライブの前に郵送の為に郵便局に行って、自ら料金別納の印を押し、郵送を終えてから解散ライブに向かったといいます。そして全てにケリを付けて頭脳警察は暫しの眠りにつきます。まさか十数年後に復活を遂げるとは、その時には夢にも思わなかったでしょうね。
余談ですが、絶対に再発はされないと言われていた『1』のオリジナル盤ですが、一時期は80万とも100万ともいわれる値段で取引されていたと聞きます。当時入手したのはコアなファンですので、市場に出るのは殆どなかったからでしょうね。それが2000年代になってからCD化されたりしましたので、世の中わからないものです。そして70年代頭脳警察のアルバムが紙ジャケで再発された時にインストアライブが行われています。そこでCDを買った人が参加できるサイン会で『1』のアルバムにPANTAとトシにサインを書いてもらったものは、自分にとっての宝物です。
https://www.youtube.com/watch?v=u_MEMt7zumw&t=118s
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