第5話 頭脳警察『悪たれ小僧』

 紆余曲折もありましたが、相棒のトシもグループに戻ってきました。しかしながら、他のメンバーは流動的です。頭脳警察というと、PANTAとトシの2人組というイメージが強いですが、実は他のメンバーの入れ替わりが激しいのです。一時期、メンバーが辞めたりクビにしたりして、PANTAとトシだけになってしまい、仕方ないとPANTAのギターとトシのコンガで演奏したのですが、これがマーク・ボランのT・レックスみたいな編成だと言われたんですよね。その印象が強いんじゃないかと思います。


『悪たれ小僧』は、頭脳警察末期に近い時の作品で、1974年11月に発売されています。結局、70年代の最後の作品となってしまいますが。前2作は、ロック色が足りないなって感じでしたが、今作は1曲目の『戦慄のプレリュード』からエンジン全開です。

 PANTA自身、シンプルなロックに回帰したいと考えていたようですので。不気味なサイレンのようなギターから始まる曲は、シンプルながら迫力あります。


 https://www.youtube.com/watch?v=60meeO3n4PI


 石井まさおさん、勝呂和夫さんの新メンバーがいい演奏を聴かせてくれます。またアルバム発売時には脱退していますが、京都の『だててんりゅう』というバンドから悲露詩さん(別名・楢崎裕史、燻裕理など)を引っ張ってきて一緒に演奏していました。『悪たれ小僧』のアルバムでも一部の曲でベースで参加しています。悲露詩さんは、唯一、頭脳警察と裸のラリーズの両方のバンドに所属していた人ですね。


 タイトル曲の『悪たれ小僧』は、ライブで演奏しても盛り上がる曲ですね。ビクターから最初に発売されたCDでは、アグネス・〇ャンという部分が修正されています。まぁ個人名ですし、『アグネス・〇ャン見てなにをかいた』という歌詞ですしねぇ。因みにライブでは、名前の部分は色々変えて歌ってますし、『なにをかいた』は、本来の意図である『マ〇をかいた』とか、『うそを投げた』は、『ク〇を投げた』だったり、更に『生死ばら撒いて』とか歌詞を変えて歌ったりと、まぁ盛り上がっていましたね。


 https://www.youtube.com/watch?v=aX9jjhHvlWw



 そしてPANTAは、『頭脳警察』のパブリックイメージに苦しめられて耐えきれなくなっていきます。初期の『革命3部作』や『ふざけるんじゃねえよ』といった過激な曲ばかり求められる日々。『頭脳警察』には、もっと高い音楽性があるのに、理解してもらえないと。アルバム発売後は、益々ギャップに苦しんでいた感じだったとの事です。

 そして自伝『歴史からとびだせ』に書かれていた、あのやり取りが行われます。

(実際はどんな感じかはわかりませんが)



「あんまり酷くならないうちに、葬式あげてやろうか?」

「いつ言い出すのかと待ってた」



 PANTAは、「トシは責任逃れをしてずるい」とボヤいていたようですが。

 結局、1975年の大晦日に、開店して間もない渋谷屋根裏で、頭脳警察は解散することになります。


 70年代最後のアルバムの最後の曲は、『あばよ東京』。この曲は、PANTAにとって特別な曲です。最初の録音で、ラストのインスト部分で想定外の盛り上がりとパワーを感じさせて、そのままOKとなった逸話を持ちます。90年代に頭脳警察が限定復活した時も、解散直前になってレパートリーに入れています。何時しか特別な時だけに演奏される曲となり、PANTAの生前最後のライブでも演奏されています。過激なメッセージだけが頭脳警察ではない、PANTAの想いが込められた曲だと思います。


 https://www.youtube.com/watch?v=reeQP1ZqUUg



 余談ですが、『悪たれ小僧』のオリジナル版のジャケットには、石井さんと勝呂さんのモンタージュ写真風のものがデザインされていましたが、再販分からはカットされています。『下の写真は新型爆弾SS事件の犯人のモンタージュです。見つけたら急報しましょう』のコメントも書いてあり、洒落とわかりそうなものですが、冗談が通用しない人も中には存在するようですね。ビクター盤の最初のCDもカットされたデザインですが、別会社の紙ジャケ版は、オリジナルに忠実となっています。メンバー名にトシの名前が抜けている等の裏ジャケのミスプリントも忠実に再現されています。

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