第49話 異世界魔王と現地魔王

 第三ウェーブの告知。

 それと共にアギトへ撤退を命じ、他の冒険者もそれを聞いて下がっていく。


「全員退避させ安全を確保したら、必ず私も戻りますから。どうかそれまでご無事で!」

「誰を案じておるのだ。我は……異世界の魔王ベリドーグなるぞ!」

「いやだ、ドーグと一緒に俺も戦……」

「アール。すまない。では!」


 暴れるアーニーを気絶させたか。

 我にはそんな力のコントロールが出来ぬ。

 感謝するぞ、アギトよ。


 第二ウェーブでも既にかなりのモンスターであった。

 スカアハめ……まさかこれほどの力量とは。

 地下三階ダンジョンがいかに攻略困難であるか、それを告げておるつもりか。


 ……黒いもやと共に現れたのは巨大魔道ゴーレム四体。

 そして……竜である。

 壁の一部などは破壊されておるが、やはりこやつらの進軍は一直線だ。

 竜は形状からしてブレスを吐くタイプである。


「このクラス相手に遠慮は必要あるまい……む?」

『ピンポンパンポーン。ドーグさん! マークです。落ち着いて聞いて下さい。モール内に設けた音声魔道具です。緊急時にしか使えませんが……そちらに協力を仰いだ人物が向かています。どうかそれまで無茶をなさらないように! 特に出来るだけ建物は壊さないでくださいね! あなたの実力は信じていますから! ……ピンポンパンポーン』


 む、むう。何ともやる気をそがれる音であるか。

 しかしマーク殿には世話になっておるし、建物を破壊するような凶悪魔法は出来るだけ避けたいのだが。

 サクリファイスで呼び出す骨共はそのようなことなど考えぬし、リッチーなどもあまり我の言う通りには動かぬ。

 ここは一つ……アレを久しぶりに試してみるか。


「我が魔道其の九十九。九竜クーロン変化、黄金竜ジ・アビス」


 この魔法は我の肉体と我の装備を融合させ、その姿を金色で九つの頭を持つ竜へと一時的に変化させる。

 身体能力こそ低下するものの、あらゆる耐性の向上、そして……「この形態はなにより、真正面への攻撃に優れておる。くらえ、アビスブレスを!」


 真正面に放たれる九つのブレス。

 図体のでかいゴーレムなど跡形もなく消し飛んだわ。

 しかし竜は飛翔して回避されたか。

 だがこれで残るは竜一匹。

 この魔法は多大な魔力を消耗するが……竜一匹など残りの余力でも倒せる。

 ……む? 

 そう考えておったら、さらに追加のモンスターだと!? 

 今度はヘルズワーウルフ三匹! くそ、素早い身のこなしに二足歩行で壁を伝い走って来る厄介な相手だ。

 並大抵の魔王でも、一度にこれほどモンスターをけしかけることは出来ぬ。

 挨拶にもほどがあるぞ、スカアハよ……。


「トンカチぃ両手に四十年ー、叩いて、伸ばして五十年ー、俺様の腕にかかりゃあよぉー、どんな鉱石もイチコロでぇい! せいや!」


 今度は一体なんであるか!? 破滅音を流すバット類か? それともコンフュージョンボイスで我を魅了させるアルラウネか? なんという酷い歌であるか。

 ……む? 

 ヘルズワーウルフを倒していくあやつは何者だ。

 両手が……ハンマーだと!? 

 頭には角が二本生えたような兜。

 短い足に頑丈そうな鎧。

 ……ヘンテコである。

 

「この俺様こそトンカチ魔王! この世界の偉大なる魔王だ! ひれ伏せぇい! ヌワーーッハッハッハッハッハッハ!」

「魔王……だと!?」

「おい、話は聞いてるぞ道具屋の主人! 後はこの俺様、トンカチ大魔王に任せておけい! ヌワーッハッハッハッハッハッハ! っておい、ドラゴンがいるなんて聞いてないぞ! ドラゴンがいるなんて聞いてないぞぉー! いい素材じゃないか。ゆくぞ我が相棒トン、カチ!」


 ……おかしい奴が現れたのである。

 しかし今のうちに魔を練り上げてしまおう。

 それにしてもあやつ、魔王を名乗りおったな。

 身のこなしや攻撃に隙が無い。

 かなり戦い慣れた戦士である。

 そして……あの両手。

 あれは金属を打つハンマーで間違いあるまい。

 魔王で金属を打つハンマー……つまりこやつは! 


「お主、同業者であるな……」

「おい! 俺様は魔王だと言っただろう! 道具屋じゃないぞ! いいからさっさと援護しろぃ!」

「しかしだな、我の攻撃が当たればお主、死ぬぞ?」

「バカ言ってんなぁ! 俺様は魔王だぞ。攻撃が当たったくらいで死ぬか!」


 仕方あるまい。少し弱めの攻撃でなら……しかし我の攻撃に弱いものなどない。

 残るは飛翔する竜一匹。ここがモールでなければもっと戦い辛かったであろう。

 いくらなんでも竜にとっては狭すぎる場所である。

 奴らが本気で戦えるのは広い空だ。

 まずは地上に引きずり落としてやらねば、あのトンカチ魔王とやらも攻撃出来まい。

 残りの魔力であれば……「目をつぶれトンカツ魔王よ!」

「んあ? トンカツ? それでは歌います。聞いて下さい目つぶしの歌」

「いや歌わんでいい! 目をつぶっておれトンカツよ!」


 そもそもこやつはなんで歌っておるのだ。

 ルルが見かけたという、嵐の中歌っておったのはこいつではないのか。


「サクリファイスグレープヤードアイボリックギルティネーター!」

「ん? なんだその長い呪文は? おい、俺様見たいぞ!」

「ええい、いいから目をつぶっておれ! ゆけ、アイボリックよ!」

「ギュルルルルー……」


 このアイボリックギルティネーターというのは、遺体を安置する場所を好む視線攻撃型モンスターである。

 こやつを視線でとらえたまま攻撃すると、視認不能及び猛毒、麻痺などのバッドステータスが起きる。

 そしてこやつに敵として認識されると、どうしても攻撃したくなるほどわずらわしい行動を取る。

 案の定竜のやつめ、攻撃しおった。


「よし、今であるトンカツよ!」

「ちゃんと魔王を付けろ! あれ? 俺様トンカツだったっけ? まぁいいか。竜、取ったどぉーーー!」


 ごつりと鈍いハンマーの音。

 ……こやつ、どんな怪力をしておるのだ。

 ハンマーで殴りつけた竜が地面に埋まっておる。

 マーク殿が壊すなと言ったのに。我は知らぬぞ。


『カーニバルの終了を確認。全軍撤退中。報酬を付与します。付与対象、残存二名を確認。転送します』


 ええい、まだ何かあるのか!? 

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