第45話 地下三階はどうあるべきか

 アーニーに武具製作を指導してから五日ほど経った。

 製作された武具は合計十二。

 フレイムタンをはじめとしたマジックソードが五本。

 投てき用ナイフ、護身用ダガーが三本。

 それ以外に槍一本、杖一本、斧一本、こん棒一本である。

 各種能力についての説明などはまた別途作る必要があるだろう。


 地下一階、地下二階ではこれらを作っている間に、商品を用意して販売を開始。

 我やイーナからしてみれば想定内であるが、新しく入った者たちには驚くほどの人入りだったようである。

 特に地下一階は盛況であり、途中我とアーニーも手を止めて手伝うはめになったほどだ。

 魔道の小瓶は当然ながら予約交換券のみで完売。

 そして問題となったのはスライムを封じたあのスライムカードと仮の名をつけたアレである。

 スライムカードを追加で五枚は用意したのだが、ルルには計算があるようだ。

 まず張り紙をして告知することにし、追加で違う種類のものを用意するように頼まれた。

 そしてルルはなんと……スライムの絵と、黒い大きなハテナマークをあしらった紙を貼りだし、【近日入荷やで!】と書き、その紙を店に貼るだけでなく、地下一階を絵娘に同じ紙をかたどらせて飛び回らせたのだ。

 まさに空飛ぶ看板である。

 そしてこれの効果で問いかけが殺到してしまったのだ。

 一体スライム以外どんなものがあるのか。

 スライムの色はどうなのか。

 味方として戦ってくれるのか。

 いつでもしまっておけるのは本当か。

 連れ歩いているのを目撃した者もいて、あんな可愛いもの、欲しいに決まっているじゃないかなどであり、中にはショッピングモール職員や冒険者ギルド職員までいる始末である。

 そして名称も正式に決まったのだ。

 スライムカードではスライムしかないことになるのでな。

 お供カードという名前に変わったのだ。


 そんなお供カード製作についてはルルからいくつか指示があった。

 まずルルが客に手本として見せるためのお供カードをどうしても作ってくれと言っておった。

 しかもルルのものは……いや、そちらは製作中である。

 ルルが指定したのは三種類。

 一つはパルームという小型で愛らしい、白い長毛種のモンスター。これを三つ。

 そして緑色のギィギィうるさいゴブリンを五つ。

 さらになぜか小型のオークを二つ用意してと言われたのだ。

 先に作り売らなんだスライムも合わせると、お供カードが合計十五枚ある。

 これをどうやって売るつもりなのかまでは分からぬが、さらに頼まれて作っているものもあるので忙しくて敵わぬが、なぜであろうか。

 ルルには毎回言葉で圧倒されてしまうのだ。

 こと商売になると目の色が変わるようである。

 ルルには何かあるのだろうと、我は言われた通りそれらを準備し終えたのが今日である。

 このお供カードが目玉となるのは次々回である。

 明日分は紙を貼りだし客を引き込む準備のようだ。

 そして明後日に連続営業を取るようである。

 さすがに魔道の小瓶もそろそろ売れ行きは悪くなるかもしれぬがな。

 これが地下一階の現状である。

 地下二階は初日から大繁盛であった。

 というのも、ロン・ギルガという男が店に来てしまい、格闘武器をそこで買ったことから多くのファイターたちが店を訪れた。

 そこで飛ぶように売れたのがルピなんちゃらの靴である。

 どうもファイターというのは直ぐに靴を破壊するらしい。

 よほど地面を強く蹴っておるのだろう。

 そして、そんな男ファイター共はジュピターにくぎ付けとなったようだ。

 我が知る限りでも、あれほど容姿端麗ようしたんれいなハイエルフ賊はおらぬので無理もあるまい。

 イーナはというと、店構えが増えたため、ナレッジの指導により店舗経営を学んでおるようだ。

 そもそも地下一階の道具屋はイーナが借りたものであるし、我もイーナと協力して道具屋を経営すると決めたのだ。

 異世界道具屋レーベルは、まだまだこれからである。

 真面目なイーナの息抜きには、バレッタやルルが手を貸してくれるから安心である。

 さらにバレッタの知人であるサレニア。独特なしゃべり方をするこやつも雰囲気をよくしておる。

 赤い服が良く似合っておるので赤色娘と呼ぶことにしたのだが、眼が横に伸びてにらまれるより怖い目つきで見られた。

 ううむ……不思議な能力を持つ娘である。ルルがとっさに「なんやジト目してどないしたん?」などと言っておったが、ジト目という能力を持っておるようだ。

 目の力を持っていたとは……赤色娘には気をつけねばならぬな。

 後は護衛に回っておるリザードマンのアビネアだ。

 地下一階は混乱気味に混雑したのだが、見事制してくれた。

 本人も「ここだけじゃなく地下二階もあたいが見といてやるよ。任せな。商売繁盛、結構じゃないか。ヤリ甲斐あるねえ」と喜んでおった。

 今後は犯罪者など出るかもしれぬので、頼りたいところである。。

 さて問題は地下三階、我の仕事場である。

 現在我とアーニー、そしてルルがアーニーを追いかけ回している最中であるが、店と呼べるような状況ではない。

 外観の修理は着実に進んではおるのだが、内装がまるで出来てはおらぬ。

 その内装について話をしたいのだが……イーナとバレッタ、ナレッジは絵娘の件で少し大変である。

 あやつが裸にならないためにどうしたらいいのか……というのをモール側と相談しているのだ。

 そのためルルが地下三階の内装担当となったのだが……「お願いやからちょっとだけな? ええやん、減るもんちゃうし」

「いーやーだー!」

「ううむ、お主らいつまで走り回っておるのだ」

「ピキーー……」

「ムイよ。お主もそう思うか。しかしイーナの代わりにお主が来るとは思わなかったぞ」

「ピキー?」

「ふむふむ。元気でやっておるようだな」

「ああっ、ベリやん! うちの頼んだアレ、出来た?」

「む……ようやく止まったか。アーニーよ、壁の上に登ってよい恰好ではないぞ」

「だ、だってルルが! ってこっち見んなバカー!」

「バカとはなんであるか! 我は……」

「わっ、落ち……」

「やれやれである。プロテクトウォール!」


 先日アーニーにも教えたプロテクトウォールは、このように高所から落ちた者を守るのにも丁度良い柔らかさである。


「何コレ? なんでアーニーちゃん浮いてるん?」

「へぇー、これってこんな使い方出来るんだ……あの、ありが……と」

「ん? なんであるかアーニー」

「うるさいうるさい、なんでもない! もー俺はイーナのとこ行ってくるから! じゃあな!」

「あ、待ってぇアーニーちゃんー! イーナちゃん今おらん……はぁ、尻尾にリボン付けたかったのにぃ」

「ルルよ。アーニーを可愛がるのはよいが、無理強いし過ぎてはいかんぞ」

「だってぇ、可愛すぎるんやもん。うちの世界の女子やったらみんなアーニーちゃんの推しになってまうで? ファンクラブとか出来てアイドルんなってテレビとかも出ちゃうくらい可愛いやん!」

「ううむ、魔法を唱えるのは止めるのだ、ルルよ。それで、内装の話をしにきたのであろう?」

「そうやったわ。あんな、うち武器屋なんてもの全然知らないんよ。やからどうしたらええとか思い浮かばないんやけど……武器って男の人が見に来るもんちゃうの?」

「そうでもないぞ。恐らくであるが、我の店にはエルフたちが多く来るかもしれぬ」

「エルフ? ジュピターちゃんみたいなべっぴんが来るん?」

「ジュピターはハイエルフである。ハイエルフは杖こそ持つであろうが、エルフのように弓や短剣などは滅多に使わぬな。何せジュピターであれば実態を持つ矢より魔法矢で射る方が理に叶っておるし、短剣を用いずとも近接戦闘を行うことはまずないであろうからな」

「ふーん。やっぱりうちにはさっぱりやわ。でも女性客も来るとなると、今のままやと入り辛いわ」

「やはりそうか。アーニーであれば気にせぬと言うのだろうがな」

「何言うてるの! あんな可愛い子にこんなごつい場所の方が似合わんわ。せやから地下一階にな?」

「それはアーニーの望むところではないと申しておるであろう? それにレイスもおるからな。あまり目立たせるわけにはいかぬのだ」

「せやった……アーニーちゃんのためにも、ここをもっと可愛くせなな。せやけど売れ行き悪かったら困るやろうし。うーん。武器っていい悪いをどうやって確かめるん?」

「ふむ、基本は己の目、能力で確かめるべきなのが武具である。ルルよ。例えばであるが、ルルが武具……いや服を買いに来た折、お主が身に着けている服が合っておらぬと言われれば気分を害するであろう?」

「ううーん……好みの男性に言われたらそうでもないかも?」

「……では、マーク殿にでも言われたらどうであるか」

「めちゃくちゃ怒るで?」

「マーク殿、すまぬ……いやそうではなくてだな。つまり武具も店員にどうこう言われれば客の気分を損ねるであろうと言いたいのだ。我が剣士に向いていないものに対し、剣士に向いていないから剣を買うななどとは言えぬ」

「ううん……確かにアーニーちゃんもずばっと言ってしまいそうやわ。せやけどな? 何かこう、さりげなく合ってないことを分かってもらえるような仕掛けとか、考えられへん? せっかくいい道具でも、合ってないものは買ったら失敗した! って思うやん。うち、そういう失敗するの嫌なんよ」


 ルルの言うことも最もである。

 失敗せず、しかも相手を不快にせぬ助言が出来る場所、あるいは道具であるか。

 ふむ……「なれば適性検査用武具を用意するか」

「何それ!? そんなもん作れるん?」

「その武具を振るうと正面に斬撃などが出る武具がある。その斬撃の色合いにより適性が分かるという道具である。実戦用ではないため使われることは滅多にないのだが」

「それやったらその適性検査一回につきお金取れるで! 人もめちゃくちゃ集まるわ」

「……ぬ? 振るだけであるのにカネを取るのか!? ただ置いておき、振るのもその者の労力を使うのにか?」

「ベリやん何言うてるん? 自分では分からない、自分の情報が分かるんよ? そんなのいくらでもお金払うって人おるに決まっとるやん。武器のことなんて全然分からんうちだって、それ振ってみたいて思うよ?」

「そんなものであるか。なれば分かった、早速作ってみようではないか……と、これは内装には関係ないのではないか?」

「あはは……せやったわ。ほんなら内装はうちとバレッタちゃんで決めておくわ。絶対アーニーちゃんが喜ぶ内装にするから楽しみにしててや!」


 ふうむ、やはりルルには驚かされる。

 我であればこんなことでカネを稼げるとは考えぬ。

 自らの情報を知るためにカネを払う……か。

 実に面白い発想である。

 よし、地下三階の始動に向けていよいよラストスパートである! 

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