第44話 製作とアーニーに魔法を教えるのである

 ここはマーク殿に頼み込み借りることが出来た地下三階、我の作業部屋である。

 量りなどはもちろんのこと、火を十分に起こせる古代の道具……というような設備や、おおまかな形をつくるために使用する砂を大量に用意してある。

 これは後ほどアーニーに説明するつもりだ。

 なにせ我の能力があれば、このような道具など使用せずとも武具は造れてしまう。

 これはアーニー用といってもいい。

 他にも火ばちやらテコ棒やらと細かい道具はあるのだが、それらは使いながら覚えさせればよいだろう。

 

「では早速説明を始めるぞ、アーニーよ」

「うん。いっぱい道具があるけど、まずはどうするの?」

「見ておるがよい。まずはだな、このインゴットを手に持つのだ」

「うん。結構重たいぞ」

「そしてこれを我のすそに通す」

「すそ……? ええっと、俺のすそに通らないよ?」

「うむ。そしてだな。すそから取り出すとどうだ……もう一本の短い剣になっておるではないか! さぁやってみるのだ」

「……はぁ? なんですそに通しただけで短剣が出来るんだよ!」

「うむ、これぞ魔法である」

「出来るわけないだろそんなこと!」

「ふっふっふ。冗談はさておきである。インゴットから開始すれば余計な精錬作業は大分省くことが出来る。にくべてアイアンインゴットを溶かし、酸化せぬように魔と結合する。まずは我の得意な火魔法のエンハンス武器を製作するぞ」

「ドーグって火魔法が得意なんだ」

「うむ。今回はアーニーでも作れるような手順を考えて行う。この古代装置はなかなかに優れておるが、高熱を発すれば危険である。熱を起こした正面に、耐火性能を持つプロテクトウォールという魔法で透明な膜を作るのだ。防御魔法としては欠陥であろうが、熱を使う武具製作においては役に立つ」

「プロテクトウォール?」


 魔法とは使いようである。

 プロテクトウォールは防御系魔法初歩であるが、戦闘で用いれるほど高い効果が得られぬ。

 なにせ透明な壁であるし、動き回ったらどこがプロテクトウォールなのか分からなくなる上、時間が経てば消滅する。

 そして調節次第ではあるが、存外柔らかい。

 たまに魔術師どもがそれに寄りかかり、休憩用として使われるものだ。

 そして消えてずっこけておるのも目撃した。

 我の使い方はまるで違う。

 これぞ正しい使い方と信じておるのだ。


「わー。本当に透明な何かがある。ぷにぷにしてる」

「うむ。その感触が好評のようでな。この魔法はかなり多くの者が使用可能だ。しかし触れても熱くないであろう?」

「うん。防御魔法って便利なんだな」

「この程度の魔法であればな。しかし中には恐ろしい防御魔法も存在する。バイオレットマナテクトリフレクションという魔法はだな……」

「ドーグ、脱線してるよ。鍛冶をしないと」

「む、そうであった」

「この砂は何に使うの? いっぱいあるけど……って炉に流したアイアンインゴットがどんどん剣の形になっていく!?」

「ふっふっふ。透明な膜と言ったであろう。プロテクトウォールは我らへの熱を防ぐだけではなく、このように武具の形を作るのにも一役買っておるのだ」

「押すと柔らかそうだけど、熱は平気なんだ」

「今からこの魔法をアーニーにも教える」

「俺が魔法を……出来るのかな」

「お主には高い魔力探知がある。異世界でも必ず出来るであろう。手を貸すのだ」

「ん? 手? 手……」


 む、出そうとしてその手を引っ込めおった。

 ええい、さっさとせぬか。


「よいから早くするのだ。先に進まぬではないか」

「熱かったり痛かったりしないよな? それにここ、ちょっと熱い部屋だから手が汗ばんでるかも……」

「それはそうである。鉄を溶かすほどの高温を奥で発しておるのだ……うむ、小さい手であるが問題なかろう。魔印契約といってな。一番手っ取り早く魔法を習得させる技法である。よいな、ルルには今は内緒であるぞ?」

「手に……紫色の文字が!? 体に入っていく。吸い込まれてる」

「それがプロテクトウォールの媒介となる印である。それらが吸収されない体であれば適応性が無いということ。我を越えるほどの魔力探知者が弾かれるなどまずあり得ぬ。なんなら我の中でも相当に強い魔法ですらこのやり方で魔法を覚えさせられよう」

「……全部入った。ドーグと同じ魔法が使えるんだよな?」

「その通りだ。やってみるがよい」

「やったぁ! ……あっ」

「ふっふっふ。大分元気になったな。これは初歩魔法なので複雑な詠唱は要らぬ。単純に手を前にかざしプロテクトウォールと唱えるがよい」

「こう? プロテクトウォール……なんか手の奥から引っ張り出されるような感覚。少しむずがゆい」

「お主の魔力を吸っておる。直に慣れるであろう。どれ、触ってみるか。これは……もちもちとした実に柔らかいプロテクトウォールではないか。ぐわーっはっはっはっはっは!」

「笑うなぁ! でも、本当だ。ドーグの出したやつより全然柔らかいや。なんで?」

「どのような魔法でも修行して使いこなさねばまともに機能せんのだ。我のプロテクトウォールは、すでに使用回数千万回を越えておる」

「千万て、そんなに使わないとダメなの!?」

「ふっふっふ。魔法は奥が深いのだ。さて、そうこうしている間に……」


 炉にくべた金属がプロテクトウォールにより酸化をふせぎつつ、プロテクトウォールの型によりある程度形が出来ておる。

 金属は溶けると粘性が高いことが分かるのだが、それらの説明もまずはよしとしよう。


「次は砂型で冷やしながら固定させるのだ。そのためにこの砂を使う。この技法はシェルモールドなどと呼ばれることがあるな」

「シェルモールド?」

「ただ型に流し込み鋳造しても上手くはいかぬのが鍛冶である。砂型で行うと多くのメリットがあるのだ。そして何より砂は魔法を通しやすい。エンハンスするのはこのシェルモールドという技法がもっとも行いやすいのだ。さらに寸法を正確にするにもこれが一番である。我の魔法による創造より高い精度を誇るため、他の魔法から特注依頼を受ける場合もこの方法をとる」

「それじゃ、俺に合わせた武器もこれで作ると手に馴染みやすいってこと?」

「そうであるな。アーニーの手の小ささであれば、市販されておる武具などどれも使い辛いだけであろう。この技法であれば女子供であっても軽く振り回される設計の道具を作ることが可能である。そうであるな……まずはこの砂に、ファイアボールの魔力を注ぎ込むと……」

「砂が赤色に変わった!? これがファイアボールの魔力なんだ」


 シェルモールド加工を済ませ、砂型を砕くとそこにはアイアンインゴットの原型はすでになく、一本のショートソードとなる基礎が出来ておる。

 

「持ち手がないけどもう使えそうな剣になってる。これだと全体にファイアボールが付与された剣になるんだ」

「その通りである。本来ここから不純物などを取り除く作業があるのだが、これは我の能力で飛ばすとしよう。これには調査インバス、そして衝撃ゾーンインパクトを使用する……ちょっと待っておれ」

衝撃ゾーンインパクトって指先で鉄にひびを入れたあれ? そんなの使って大丈夫なの?」

「魔法は使いようである。ふむ……」


 不純物が少ない。見事なインゴットだけはある。

 よし……これで持ち手などをはめ込み接合させ、完成である。


「さぁ出来たぞアーニーよ」

「本当に燃えてるみたいな炎色だ。先端部分へ向けて色が変わってる。なんてキレイなんだ。これがドーグの武器……」

「うむ、なまくらである」

「なんでだよ! こんなキレイで恰好良い武器、直ぐ売り切れるに決まってるじゃないか!」

「ふうむ、まぁなまくらであってもそこそこは売れるであろう。さぁアーニーよ。プロテクトウォール同様、魔法初歩をお主に与えていく。どれが適合するか分からぬが、属性魔法を習得するのだ」

「うん。分かったよ。手が必要なんだろ? はい」

「いや、数が多いのでな。背中である」

「えーっ!」


 少し小うるさくはあるが、良い助手が出来たな。

 ルルにも試さねばならぬことになるが、それは今ではない。

 今その話をすれば、ルルは地下一階からこちらへ来てしまうであろうからな。

 ここはルルがおるには少々ぼろい。冒険者稼業をやっていたアーニーならともかく、ルルには厳しかろう。


「ほ、ほら。これでいいか? あんま見るなよ……」

「少し布をめくるのだ」

「わ、分かった……」

「よし、火から順番に試すぞ」

「ひゃう!?」

「む、少々冷たかったか……よし、なれば水魔法から始める。アクアベール……アイスランス……ウィンドカッター……ファイアボール……ストーンバレット……ライトニングギフト……カオティックハウンド……ダークネスオーバー……」

「おい! 後半なんか物騒なの聞こえたぞ! ひゃう!? 触ったまま動かすなぁ!」

「これはすごい。アーニーよ、お主まさか我と同じく属性対応型魔道の使い手である。この手の者は左手と右手で別々に同時魔法を発動可能であるし、属性に制限がない」

「よく分からねーけど、終わった?」

「うむ、初歩は終えたぞ」


 と、背中を向けたまま遠くへ行ってしまったが、まぁよい。

 これでどんどんと武具を作って売り込めるであろう。

 魔道の小瓶はすでに製作が完了。そしてスライム用の道具も問題ない。

 後は我の新商品。スライム以外の呼び出し可能な道具を作らねば。

 

「なぁ。こうやって魔法を体に封じ込めて、本当になんともないのか?」

「魔法を……封じる? ふむ、そういった発想は無かったな。それは魔法を封じているわけではなく、ただ……そうか! アーニーよ。その発案、我がもらったぞ!」

「……?」

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