第43話 武具製作の開始である
アーニーと互いの世界について話をしてから今日で丸三日となる。
アーニーの世界では多くの神という存在がおったようだ。
我の世界ベルゼハデスには、一部異世界の者を召喚する儀式を行う怪しい輩はおったが、神と名乗る者は目撃されたことがない。
そう告げるとアーニーは首を傾げ、「召喚って神が行うもんじゃないのか?」と聞いてきた。
そこで転移についてを細かく説明してやったら途中で寝てしまいおった。
まぁそのようなことはどうでもよい。
今、我の目の前にはきらびやかな素材が並べられておるのだ!
そんな我の横には、ピンク色の前掛けに耳のところだけ出る白いふわふわがついた赤い頭巾をかぶらされたアーニーがおる。
誰が着るように命じたかは言うまでもあるまい。
これは買ってきた商品ではない。手作りの衣類である。
「……なんだよ」
「よく似合っておると思ってな。ルルの言う赤
「知らないよ。これ以外の服没収するとか……なぁ、俺もここで働けばお金もらえるんだよな? な?」
「無論である。しかし衣類はモールの外に出ねば買えぬぞ」
「あっ……ならさ、一緒に行って……その、服を選んで……」
「ん? よく聞こえぬぞアーニーよ。さぁ我らが製作の作業を始めるぞ!}
「ばかーーー!」
「む、バカとはなんであるか。我は天才魔道具開発の魔王、ベリドーグなるぞ!」
「ふん。別にいーよ一人で行くから! そんで俺は何を手伝えばいいの? この金属の棒、何に使うんだよ」
「これはインゴットである。棒ではない。まずは武具製作から開始する予定だが……そうであるな」
武具と告げるとアーニーは興味があるのか、出ている耳がぴょこぴょこと反応する。
「でも、これってただの鉄だろ? いくつあるんだろ。一、二……うーん」
「こう数えるのだ。アイアンインゴットを縦に五段分。それが六つある。なので合計三十本のインゴットである」
「このインゴット一つで武器が一つ出来るのか?」
「種類によるが、基本は二、三本である。今回作るのは小型の武器が多い。販売する商品の数を増やすためであるな」
「ふーん。鉄以外にもあるけど、そっちも加工を同じように出来るの?」
「うむ、可能である。さてここで問題だぞ、アーニーよ。これらのインゴットを加工する上で、気にせねばならぬことはなんであるか」
「え? うーん……何だろう? 俺全然分からないや。武器って使えればいいって思ってたし」
「基本はみなそうであろう。大切に使う者、雑に使う者もおる。作り手としては大事に使って欲しいが、そうはいかぬ相手にも売る必要はある」
「それってどういう意味だ?」
「今はそちらの話はよい。後ほどの話に結びつくことである。まず、世界とは元素の力や魔の力などで動いておるのは分かるか」
「ああ。ルルの世界には魔が無いんだろ? それでもすっげー便利だって聞いた。機械の力で空も飛べるとか言ってた」
「その世界は特殊であろうが、ルルの世界でも元素の力が必ず存在するのるだ。そしてこの元素というのが厄介でな。元素同士で結びつき、そして魔とも結びつく。そして鉄は結びつく力が強い元素である。今元素ってなんだという顔をしておるが、ひとまずそれも置いておくとして、魔鉄というのは聞いたことがあるだろう?」
「ああ。鉄に魔力を流して強くするってどこかで聞いた」
「少し違うがそのようなものである。強化どころか劣化するケースもあるのだ。これが酷い状態を
「へぇー、知らなかった。魔力が込められてる武具でも鉄より弱くなるってこと?」
「その通りである。一見ピカピカと光っており、いかにも強いという剣に見えても中身はただの劣悪な剣となる。しかもだ。ここにカラーコーティングを加えてみるとだな」
「カラーコーティング? なんだそれ。なぁ、もっといろいろ教えてくれよ。なんかすげー楽しくなってきた」
ううむ、なんだかんだといってもまだまだ子供であるな。
しかし望むところである。我は道具製作が大好きである。
アーニーであれば教えてやるのもやぶさかではない。
「そんじゃさっき言ってた注意しなきゃいけないってのは、鉄が魔力と結びつくと劣化品が出来るから注意しろってこと?」
「それだけではない。他の元素と結びつき……平たく言えば錆びてしまうこともある」
「錆びる? これ新品の金属だろ? 加工すると錆びるのか?」
「これが酸化というものである。鉄は多くの元素や魔と結びつきやすい分、鉄加工品は製造過程でも錆びる可能性が強い金属なのだ。しかしであるぞ、アーニーよ。多くの元素や魔と結びつきやすいというのは非常に優れていることだと思わぬか?」
「んーと……難しくなってきた。それってどういう意味?」
「お主の世界にも多くの属性魔法があったのではないか」
「俺の世界だとさ。魔法っていうより術って言い方してた。幻術とか妖術とか。魔術が魔法の類なら、使い手はあまり多くなかったよ。でも火の術とか水の術とかいろいろあった」
「うむ。魔法と術では発生源そのものが違う可能性があるが似たようなものである。例えば鉄に火の魔力を付与……これをエンハンスというのだが、こうすることによって完成するのがフレイムタンという炎の力が宿る剣となる。刀身にまんべんなく付与するタイプや、刃先寄りに白く浮かび上がる
「ドーグはそんなものまで作ってたの!? だったらもっと武具を作って売ればいっぱい儲かるじゃん」
「……ダメである。我の武具は危険極まりない。我は我自身の世界すら滅ぼしかねない武具まで作ったことがある」
「世界を、滅ぼす……」
「うむ。そのため武具は基本作っても良質までと決めておる。さきほど述べたのはそれ以下であるがな。どうだ、我はすごいであろう? ぐわーっはっはっはっはっは!」
……む、アーニーは我を茶化したりはせぬな。
真剣にすごいと思っておるようだ。
「うん、すごいよ。俺じゃ全然敵わなかったわけだよ。ドーグが身に着けてる装備だって自分で作ったものなんだろ? それも良質までのものなのか?」
「うむ、そうである。我の最高傑作はあるが、基本我の力を抑制するものがほとんどである。アーニーよ。そのインゴットを一つ手に取り、端を持つのだ」
どれほど危険な力か見ておいた方がよかろう。
鉄はその高度、加工難易度から重量性さえどうにかなれば優れ過ぎるほどの金属である。
「こう? 重い……全身こんなの着て歩いてる人族って変態……」
「よ、止さぬか。変な想像をして笑ってしまうではないか……
思わず笑いで少々指先が震えたが、アイアンインゴットの中心部に指先を当て我の魔力を点で込める。
「……? なにかしたの?」
「ひっくり返してみるとよい」
「うわっ! 指先当てただけでこんな硬いやつにヒビが入ってる!」
「下手な武器より我の手の方が相手を破壊する能力に長けておる。しかし我の手は破壊するための手ではない。生み出すための手であらねばならぬ。そう、父に教わってきたのだ」
「父……ドーグの父ちゃんってどんな奴だったの?」
「ふふふ、アーニーよ。我はそんな話をするためお主にこの力を見せたわけではない。そのような話より、我と魔力を少しだけ込めた武器造りを楽しもうではないか」
「うん。そーだな。俺も魔力……込めてみていいの?」
「無論である。アーニーが作る武具も売ってやろうではないか。なに、みてくれは我が調整すればよい。ドワーフ顔負けのエンハンスされたアイアン装備をずらりと並べてやろう」
「おお、楽しみだー!」
しばらくはアーニーのレイスをどうにかするべく一緒に行動するであろう。
なれば我が道具製作の楽しさをとことん教えてやろうではないか!
さぁ、これより新商品を含めた多くの道具を作り出すぞ!
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