第40話 男たちの熱き闘いである
【ファイティングモールストリート】とはよく言ったものである。
我が歩いて来た場所が、ショッピングモールの店が並ぶ通りであるが、その通り部分を少し加えた部分が闘う場所となっているのだ。
そこで立ち止まって見ておる者は誰もいない。
止まろうものなら巻き込まれる可能性すらある。
無論迂回して抜ける道もあるし、そこを通ってはならぬというわけではなさそうだが、ギャラリーが出来ておるのは確実に通り側ではなく、劇場を取り壊したという奥の方からである。
この元劇場側には人だかりが多く出来ており、大混雑で熱気に包まれておるのだ。
「どうですか、この場所」
「これ、本当に紫姉ちゃんが考えたのか?」
「うむ、実に賑やかであるが我も同じようなことを聞こうとしていたぞ」
「私、直ぐに気を失うじゃないですか。だからこういうのを見て慣らしたいなーって思うこともあり……」
む、言ってるそばから見ていて気絶してしまいおった。
これから地下三階に行くのだぞバレッタよ! しっかりするのだ……と思ったら少し血の気が引いただけだったようで、慌てて支えていた我から離れおった。
「すみません、まだまだダメみたいです。裏から回って行きましょう」
「ええー、あっち混んでるじゃん。こっち側から真っすぐ行けば近いだろ? それとも通っちゃいけないのか?」
「いえ、通ってもいいんですが、そこの看板に大きく書いてある通りです」
看板は三つある。それには気付いていたがよく読んではおらなんだな。
どれどれ……【攻撃が飛んでくるかもしれません。危険です】【急ぎの方は奥から回った方が賢明です】【モール側で責任は負えません。ご武運を】
などと書かれておる。これは……バレッタが書いたのではないか。
要所要所言い回しがバレッタそっくりである。
それらの看板を見てルピなんちゃらが目を丸くしておる。
「攻撃ってここまで届くのかよ!? 格闘武器だろ?」
「ええ。魔法とか身体能力系奥義など禁止していませんからね。ここの壁なんかはかなり頑丈に作られています。時々壊れますけど、あちらで勝敗を賭ける場所があるんです。八百長などにならないよう厳しく取り締まっている場所もあちらにあります」
「ふーん。ま、おいらはそういうのいいや。んじゃ裏から回って……」
「ふうむ、やはりこれはバレッタの字であろう?」
「おい! そんなに近づいたら!」
……む。この看板! ただの看板ではない!
これは破壊されぬよう防御魔法が幾重にも練りこまれている看板である。
このモール側にはやはり、かなりの魔術使いがおるようである。
……うむ?
「魔動拳……ああっ! あんた、避けてくれ!」
『これはなんと! タイミングが非常に悪い! ここファイテイングモールストリート暗黙の了解、見せ場が出てしまうか!? 現在七連勝中のロン・ギルガが魔動の力を使ったところで正面に通行人だぁーー!」
「おいいーーーー! 危ないって書いてあるだろおーーー!」
何かが迫って来るようである。ふむ、魔を丸く押し固めて飛ばす魔弾のようなものか。大きさは中型スライム程度であるか。
ふむ……しかしこの魔弾は動きが遅いようだが。
『あーっと通行人避けない! それを見てあせったのかロン・ビリア、一気にたたみかける! 小足を挟み中足から中パンチを入れ追撃に前進ステップそして……出るか! 必殺!』
「どけ、テン!」
「おいおいらしくないじゃねーかロン。ガード固めてるのにそんな突っ込みとは」
「後ろだ! お前が避けた魔動弾が通行人に!」
ふうむじっくり見たがどれ。
凍らせてみるか。
「ミーミルの杖よ……む、凍らない? ええい面倒であるな!」
これは魔弾自体に魔法抵抗を強めて弾かれぬように工夫をしておるのか。
それがゆえ速度が遅いのやもしれぬ。
こういった場合弾いてしまえばよい。
「ふぬ!」
『な、なんとーー! 通行人が片手であのロンの魔動弾を天上に弾き飛ばしたぁー!? このキャットマイルド、長らく司会をやっておりますが、こんな通行人は初めてだぁー!』
「やれやれである。危ないではないか。我ではなくバレッタだったらどうするつもりであるか。さぁ行くぞバレッタ、ルピなんちゃら」
「あんたやっぱ無茶苦茶だなぁ……ってひっくり返ってる!? おい、しっかりしろ!」
「ううむまたであるか。仕方ない。我が担いでいくか」
『なんと、通行人は弾き返したものの先に進まず戻っていきます! やはりさすがにロンの攻撃で負傷したか!? 観客の間にどよめきがー……ってあれはバイアレッタさんでは? 皆さん少々お待ち下さい! 我らファイティングモールストリートのファン一同、敬礼!』
「な、なんか人だかりがこっちに……つか試合中じゃなかったのかよ」
「しかしバレッタは軽いな……む? なんであるか」
ううむ先を急ぎたかったのだが道が完全にふさがってしまったぞ。
我の前には黒い道義に帯をしめる男が二名。先ほど戦っていた奴らであるな。
そのうちの一人が心配そうな顔をしておる。
「すまない。普段ならそちら側も意識して戦っているんだが。これではまだ修行が必要だな」
「ふむ、先ほどの魔弾を放った者か。我であれば問題ないが、バレッタであったら大変であったぞ。次からは気を付けるように」
「問題ない……か。あんた、ウォリアーになるつもりはないか?」
「ウォリアー? 我は魔道具の作り手である。ウォリアーではない」
「そうか……一度戦ってみたかったんだがな。また機会があったら試合を見に来てくれ。それじゃ続きをやろうか、テン!」
ううむ爽やかな青年であるが、戦いに明け暮れる日々を送っておるような雰囲気がある。
これはまた、新たな商売のヒントが得られるやもしれぬな。
しかし司会とやらの声が本当によく通るのである。
『さぁ皆さんの期待とは裏腹に通行人はまさかの無傷! ロンが何かを告げていましたが乱入の勧誘失敗に終わったようです! 本日のバトルはロン・ギルガ対テン・マイナーズのワンオーワンバトル。エントリー希望の方は受付、【|A new warrior has entered the ring!《ア、ニュー、ウォーリア! ハズ、エンタードザリング!》】へお越し下さいねー!』
ふうむ余計な時間を喰ったが、ここで腕磨きも出来るようであるな。
また来る機会もあるやもしれぬ。
しかし案内役のバレッタがひっくり返ったままでは地下三階への行き方も分からぬではないか。
「ルピなんちゃらよ。このまま奥に行けばよいのであるな?」
「そうじゃねーの? 地下二階のお店って奥なんだよなきっと」
「……むう、これは……我らの店はどうやらこのファイテイングモールストリートの直ぐ横のようであるぞ……」
これは警備を増やす必要があるな。
売れ行きはきっと良好であろうが荒くれものが大勢来そうである。
「へー。したら暇なときはいつでもあれ身に行けるんだ。こっちで飲食物は売っちゃいけねーのか?」
「それは違反であろうな。さて、無事店の前にたどり着いたが……あれはジュピターであるな」
「なんであいつはちゃんと名前を憶えてるんだよ……」
「覚えやすいからである!」
ふむ、何か考え事をしておるようであるな。
まずはルピチッタとはここまでである。
ついでにひっくり返ったバレッタもジュピターに預けるとするか。
あまりモタモタしておるとアーニーの機嫌が悪くなるので早めに戻らねば。
地下二階はある程度把握した。
いよいよ地下三階に向かうときである。
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